1. 蜜色の瞳
「この街に、どのようなご用件でいらしたのですか」
焼け付くような空気の中、凛とした声が響いた。
その声の主は、あどけなさを残しながらも気高く佇む少女だった。
透き通る青髪を高く結ったツインテールが、陽炎のように揺れ、蜜色の瞳は燃えるような決意を湛えている。淡い空色を基調とした巫女装束には、胸元から袖口にかけて精緻な龍紋が縫い込まれ、手にした龍を象った錫杖は神秘的な光を放っていた。
「ふん、要件は分かっているだろう――龍の巫女」
本来ならば愛らしい微笑みで人々を和ませるその顔は、今や鋭く引き締まり、獰猛なまでの威圧を放っている。
目の前の怪物へ向けられた視線には、誰一人として近づけない強い覇気が宿っている。
その表情の奥深くには、背後の街と民を守るという揺るぎない使命感が秘められていた。
「――鈴、ですか」
それは街の象徴たる神器であり、幸福をもたらす守護龍を呼び寄せる力を持つと伝えられている。
数百年前、この地を護る龍に花嫁として選ばれた女性が嫁入りの際に授かり、以来、その血脈を引く巫女によって代々受け継がれてきた。
「……渡すつもりはありません」
その声はわずかに震えていた。
龍の花嫁の血を継ぐ者として神器の重みを背負う宿命と、胸の奥底に渦巻く恐怖を押し殺して繕う虚勢が、その表情に堅さを刻む。
崩れそうな膝を錫杖を握る指先の力で必死に抑え込み、蜜色の瞳は決して揺らさない。
怪物は目を細め、口元に薄く笑みを浮かべる。
「その小さな体で、何を守れる?」
「全てです」
錫杖の先がかすかに鳴り響く――その響きは静寂を切り裂く鐘の音のように鋭く、空気が一瞬で張り詰めた。辺りの空間が震え、神秘と決意の力が場を満たしていく。
巫女の手元から放たれるその音は、重厚な誓いとなり、街全体を覆う結界の光が煌めきを増す。
第11代目 龍の巫女
幼き頃に母を亡くし、
若くして務めを継いだ当代の巫女。
愛らしい笑顔で人々の心を和ませ、民から深く敬愛されている。
教えを不意に断たれたまま座に就いた自身の不完全さを、誰よりも自覚しており、
だからこそ民と都を守る責任を人一倍重く感じている。
その胸の内に秘めた孤独と哀しみを表に出すことはなく、もう一度母の温もりに包まれたいというささやかな願いを隠しながら、
今日も平和と安寧を祈り続ける。




