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視線

「もう一回!」

「先生来るからおしまい」

「逃げんのか!」

「こっちが勝ってるから逃げるも何も無い」


 震えて待っていた子豚ちゃんの元へ戻る。ほんとごめん、名前知らなくて。


「ただいま」

「おかえり……バスケ得意なんだね」

「昔遊びでやってただけ」

「そうなんだ。小学校の時かな?」


 お、ということはこの二人は中学からの知り合いってことか。もしかして、痩せてる時期を知ってるからいきなり痩せた俺を見てもびっくりしなかったってことかな。


「そんなことより、先生来たよ」


 体育教師っていうのは従順な生徒が好きだろうから、二人して小走りで集合場所に向かった。完全な偏見だけど。まあ、言うこと聞かない生徒よりは好きだろう。


 先生が俺を見てビビっていた。


「宮本、か?」

「はい」

「しばらく見ない間に、随分シェイプアップしたな」

「はい、頑張りました」


 何を頑張ったのかよく分からないけど頑張ったことにした。


 この会話で俺がダイエットした宮本だということがみんなに知られたのか、体育の時間中ずっとちらちらちらちらこちらを見てきた。うっぜ。


 途中、息が苦しくてマスクを外したらもっと見られた。俺の顔、本当に痩せてた時の史郎に似てるんだよな? 信じるぞ?


 ざわつきのまま体育が終わる。精神的苦痛を強いられる授業となったが、俺はそんなことも気にならないくらいの上機嫌だった。なにせ、久しぶりに思い切り体を動かしたから。今まで毎日何かしらの運動を欠かしたことがなかったので、やっぱりこうして運動すると「俺だ!」って気分になる。いいね。


「ねえ、宮本君ってバスケ得意なんだね」

「別に得意ってほどじゃない」


 教室に戻る途中、知らない女子が話しかけてきた。俺がぶっきらぼうに答えても女子は全く気にしていない。女子って強いよね。


「ちょっと、史郎君に話しかけないでくれる?」

「げ、浅木さん」


 浅木が俺たちの間に割って入ると、女子が顔を引きつらせながら離れていった。俺が浅木に目を遣る。


「やだッ見つめられちゃった」

「見つめてない」

「どうしたの?」

「いや、浅木ってクラスで権力あるのかなって」


 だって、塚田といい女子といい、浅木が一言言っただけで引き下がるから。何かあるとしか思えない。


 浅木が口を尖らせて首を傾げる。


「そんなことないよ。しいて言うなら、三年に有名なお兄ちゃんがいるくらいかなぁ」

「へえ、有名なお兄ちゃん」


 それっぽいな。どういう意味で有名なんだろう。強いとかか。塚田がビビってたし。


「史郎君、私に興味ある?」

「いや、基本無い」

「基本ってことはちょっとはあるんだ!」


 浅木がぴょんぴょん跳んで喜んだ。喜んで何より。同級生って言っても二歳年下だから、妹が喜んでいるようにしか見えないな。妹いたことないけど。


「クラスメートだからっていう接点のみで興味あるだけだから。個人的には一切無い」

「またまた。照れ屋さんなんだ」

「ポジティブ思考って時に残酷だな」


 教室に入ろうとしたら、浅木がスマホを顔面に押し付けようとしてきた。もちろん避ける。


「連絡先教えて」

「教えない」

「なんでよ!」

「面倒くさい」


 すでに面倒くさいことになっている気がするのに、これ以上はごめんだ。


「あ、僕知ってます」

「高野には聞いてない」


 子豚ちゃんが手を挙げると、浅木が歯茎を見せて拒否をした。


 お前、高野って言うのか。よかった、ずっと子豚ちゃんって呼ばなきゃいけないところだったよ。


 そっかそっか、連絡を取り合うくらい仲が良いのか。史郎と仲良くしてくれてありがとう。別人になっちゃったけど、これからもよろしく。きっと沢山お世話になります。


 高野が割って入ってくれたおかげで浅木が諦めてくれた。さっそく世話になったな。


「ありがとう」

「ううん、困ってそうだったから」


 高野って良い奴だな。ぐいぐい来るわけでもなく、変わった俺も受け入れてくれる。友だちってこういうものか。


 高校卒業してから誰とも遊んでなかったから懐かしい。そういえば、俺のスマホに何人か連絡くれてたっけ。死んだことになってて返信できないのが申し訳ない。


 史郎と高野ってどういう遊びとかしていたんだろう。荷物の中にゲーム機とソフトが入ってたから、ゲームかな。


 ゲームは流行りものをやったことがある程度だから強くないぞ。もし、普段から遊んでいたら、急に弱くなった俺を怪しむかもしれない。それはまずい。


 練習した方がいいか。でも、たしかあれってゲームしてるとフレンドに今何のゲームをしているのか知らせる機能があったぞ。内緒で出来る機能ないかな。


 スマホでさっそく検索してみる。お知らせオフ機能があるらしい。よかった。


 今日は昼を高野と一緒に過ごし、最近ゲームしているか探りを入れてみた。先月発売した対戦アクションゲームだと言っていたので、家にあるかチェックだ。


 帰りは一人でさっさと帰る。時間がもったいない。最寄駅から走る。すると、またしても家の近くで視線を感じた。


 二日連続でこれは気のせいじゃない。誰かが俺を見ているんだ。隠れられそうなところを覗いてみたが、やっぱり誰もいない。随分隠れ上手じゃねぇの。


 俺だってバレていないはずだから、俺のファンではない。史郎がここに住んでいるのはパパさんママさんと社長くらいだから、史郎目当てでもない。


 もしかして、社長辺りが様子見に来てるのか……? そしたら、直接訪問するか。

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