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体育

 翌日、さっそくやらかした。


「うわ」


 起きたら七時五十分。八時の電車に乗る予定だったのを秒でキャンセル。次の電車でもギリギリ間に合う。


「つうか、遅刻したって平気だよな」


 二人からは史郎として生きてほしいとは言われたけど、皆勤賞でなんて言われていない。もともと史郎も最近は登校拒否だったらしいし。


 よし、遅刻しよ。


 昨日の残りを食べ、顔を洗って髭を剃る。身だしなみは大切に。


 予定の二本後の電車に乗って学校に向かった。当然、同じ高校の制服はほとんどいない。みんな真面目なんだな。


「八時四十分か」


 そろそろ授業が始まる。これなら先生にも会わないから小言を言われない。


「宮本君」


 と、思った俺が通ります。


 教室に入ろうとしたら、担任教師が走り寄ってきた。なんで廊下にいるんだ。もしかして、俺を待っていたとか。


「よかった。今日も登校してくれた」


 やっぱ待ってた。


「お早う御座います。ちょっと乗り損ねただけです」

「そうなの。悩みごとがあったら、いつでも相談してね」


 それだけ言って先生が去っていった。


 悩みごとねぇ。毎日登校するのが面倒なところかな。


 目立たないように後ろのドアから教室に入る。近くのクラスメートがこっちを見た。俺を見て、そそくさと目を逸らす。なんでだよ。


 別に仲良しこよしをしたいわけじゃないけど、無視はよくないよ無視は。大人な俺は気にしないけどね。お前らより二歳年上だし。


「史郎君、おはよ」

「おはよう」


 席に着くと、浅木が駆け寄ってきた。気にはしないけど、一人くらい挨拶してくれるのもいいかもしれない。社長も、社会人たるもの挨拶が大事って言っていた。


「寝坊したの? 私が毎日コールしよっか?」

「いや、いい」


 スマホを出しながら言う浅木に断ると、何故だかニヤつきながら自分の席に戻っていった。マゾか?


 そうだ、知り合いと言えばもう一人いる。後ろを振り向くと誰もいなかった。なんだ、塚田も遅刻か。よかった、仲間がいて。というか、俺は一時間目には間に合っているからセーフだな。


「よし、始めるぞ~」


 ゆるいおじいちゃん先生が入ってきた。もう授業かぁ。昼休みまだかな。


「であるからしてぇ」


 おじいちゃん先生のゆるやかな話し方は、俺の脳に大ダメージを与えた。全子持ち世帯大絶賛の子守歌マスターになれる。


 うーん。めちゃくちゃ眠い。これは我慢できない。ごめんなさい、おじいちゃん。


 眠気に抗わずすやすやしていたら、周りが騒がしくなった。一時間目が終わったのか。顔を上げると女子が一斉に出ていく。教室にはむさ苦しい空気が残された。


「体育か」


 時間割表には二時間目は体育と書かれている。体育か、俺が唯一興味のある科目だ。


 いそいそと体操着に着替える。すると、近くの奴らが俺を驚愕の表情を見てきた。


「あ、あ、」


 いつの間に登校していたのか、塚田が変な動物みたいな声を出してくる。


「具合でも悪いの?」

「いやッちがッ違う!」


 すごいドモりながら塚田が走って出ていった。あいつこそ悩みがあるんじゃないのか。


 今日の体育がどこだから分からないので、クラスメートの後ろを付いていく。塚田がいれば教えてもらえたのに。


「あ、あの、史郎」

「え?」


 急に話しかけられた。横には小太りで下がり眉の男子が立っていた。体操着を着ているってことは、こいつも同じクラスなんだろう。


「なに?」

「い、一緒に、行こう」

「いいよ」


 なんと、史郎お前、友だちいたのか。しかも、だいぶ見た目が変わった俺に話しかけるなんてかなりの猛者だ。名前なんて言うんだろう。


「今日って外?」

「ううん、体育館だって」


 体育館か。体育館で出来るとなると、球技か、体操か。とりあえず、体を動かせればいいや。


 体育館に着いてみると、男子と女子に分かれてバスケットの準備をしていた。お、いいね。中学までは遊びだけどやっていたからルールは分かる。無駄にシュート練習とかしたな。


 知らないクラスメートが俺たちをみつけるとニヤニヤしてきた。こういう空気、やだよねぇ。


「デブコンビ、いや宮本はもうデブじゃないから、まあいいや。陰キャ二人、こっち来いよ。バスケしようぜ」


 明らかに遊ぼうぜのノリじゃない。こいつら、もしかして史郎たちをイジメてたのか?


「いいよ、やろう」

「史郎、放っておきなよ」

「平気だから。そこで見てて」


 子豚ちゃんが心配してくれるが、大丈夫だ。俺は打たれ強い。しかも、職業柄動体視力も良い。


 俺がいじめっ子の前に立つと、さらにニヤつきだした。口縫い付けんぞ。


「ほら、パース」


 ボールを持っていた男子がこっちに投げる。しかし、パスの何倍も速い速度だ。俺にとっては子どものパス並だけど。


 軽くキャッチすると、投げた奴が般若みたいな顔になった。そんな顔しているとブスになるぞ。


「後ろの女子に当たったらどうするんだ。もっと優しく投げろよ」

「はぁ? 何こいつ、かっこつけてやんの」


 ゲラゲラ笑ってくるクラスメート。子どもだから知らないんだな、怪我させることの重大さを。


「それより、バスケしよう」


 俺が投げ返すと、受け止めきれずにボールをはじいていた。


「だっせ」

「うるせ、ちょっと油断しただけだよ」


 言いながら、ドリブルして走り出す。急に始めるな。


 すぐに追いかけてボールを奪う。奪われた本人はこの世のものとは思えない顔をしていた。


 そんなの知らねぇ。あっちがけしかけてきたんだ、手加減する必要は無い。というか、バスケ部じゃないから俺だってジャンル外だし。


 憤怒の表情で追ってくるあいつを尻目に、俺はシュートを決めた。経験者じゃないからスリーポイントは無理だけど、レイアップなら余裕だ。


「はあああ!?」

「うるせ」


 思わず耳を塞ぐ。こいつの方が一億倍うるさい。他の数人は失敗した相手を笑い、見物していたクラスメートはぽかんとこちらを眺めていた。

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