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正義執行

「どうすっかな」


 俺が渡されたのは金髪のウィッグとサングラス。サングラスは芸能人みたいなデカいやつ。かけてみる。胡散臭い俺、完成。


 これに金髪被るの? サングラスだけで職質されそうな怪しさなんだけど。でも、これなら史郎だってことはバレなさそう。サンキュー社長。俺、開田高校頑張って綺麗にするわ。


 鞄に変装道具を忍び込ませ、翌日颯爽と登校した。


 そこで気付いたが、どうやって悪い奴らをおびき寄せよう。やっぱり張り込みか。高野は巻き込みたくないから怪しまれない程度に一人で行動だな。


 とはいっても、早々不良には遭遇しないだろう。今までだっておかしな輩は塚田と山田さんくらいだった。山田さんの知り合いも不良だったとしたら三人か。きっと、見えないところにわんさかいるんだ。


 ちなみに昨日検索してみたら、ここの偏差値は五十六だった。五十が平均だからわりと良いじゃん。なのに不良いるのか。というか、俺、進級できないかもしれない。ごめん、パパさんママさん。


 不良一掃と勉強の両立か~かなり難しいな。目の前の敵をぶっ飛ばせっていう単純明快なお題なら簡単なのに。複雑なものは苦手なんだよ。


「よしよし、いいじゃねぇか」


 昼休みに校舎周りを歩いていたら、悪そうな声が聞こえた。まさか、もうビンゴ? いやいや、世の中そんなに予想通り行くわけ──。


「じゃあ、一万受け取ったから」


 行ったわ。立派なカツアゲだったわ。


 よし、さっそく装着。うん、不良よりこっちが先に先生に目を付けられそう。あ、でも、ここって脱色OKなんだっけ。自由な校風だなぁ。


「あー君君、カツアゲはよくないよ」

「ああん?」


 わお、見事なチンピラ具合。高校生でこれは将来心配しちゃうよ。真面目な話、警察のお世話になってしっかり罰を受けた方がいいと思う。こんなのがいっぱいいるのか。


「これは正当な行為だからいいんだよ。それとも、お前も払うのか?」

「払わないけど」

「じゃあ、行け」


 何故か金を払わなくていいらしい俺を男が鬱陶しそうにしっしと追い払う。男の横でガリガリ体型な男子生徒が小鹿の眼差しでこちらを見つめてくる。うんうん、助けるからそんな瞳で見ないで。


「あーっと、いちおう聞くけど、そのお金返す気はない?」

「ねぇよ。当たり前だろうが」

「それじゃ、君が加害者、そこの震えている人が被害者ってことでいい?」


 そこでついに男がブチ切れた。


「被害者をもう一人増やしてやろうかぁ!」


 俺はそれをひらりと躱し、脇腹をちょんと押した。男は勝手にバランスを崩して倒れていった。見上げてくる男ににじり寄り忠告する。


「今度見かけたらこんなもんじゃ済まないから。覚悟しておけ」

「は? そんな脅しにビビる俺じゃ」

「あ?」


 ダン!


 男の耳スレスレに足を振り下ろす。男が情けない悲鳴を上げた。


「分かったな?」

「カスが! 軍団を敵に回したことを後悔するんだな!」


 しっかりザコ敵らしい捨て科白を吐いて逃げていく。おーおー、足がもつれてるよ。


「転ばないように気を付けてねー」

「うっせー! ターコターコ!」


 なんだか古風な悪口だな。いつか改心したらあの不良にも幸あれ。


 南無南無拝んでいたら、横でガリ君がひょこひょこ動き出した。


「えっと、その」

「あ、お金、返すね」

「は、はひぃ。有難う御座いました~~~ッッ」


 ガリ君はそう叫びながら逃げていった。俺のこと怖がるのちょっとひどくない? まあ、怪しい見た目だから仕方ないとしよう。


「よいしょ」


 職員室近くのトイレの個室でウィッグとサングラスを取る。ここって教師くらいしか使わないからいつも空いている。でも、このナリで教師と出くわしたら速攻生徒指導室行きだろうから、次からは他のところで取ろう。


 とりあえず一人目お掃除完了。これで改心するかは謎だけど、この話が広まって奴らが警戒してくれればいい。


 それにしても、変装して裏で正義執行って、幼児の頃観たヒーロー物っぽくて楽しいかも。毎回ウィッグ被るのが面倒だけど、バレるのと天秤にかけたらこっちの方がマシだ。


「あら」


 トイレを出て廊下を歩いていたら担任に出会った。やっべ。


「最近毎日登校できてすごいね。先生、応援しているから」

「はい」


 先生が小さくガッツポーズをしてくる。


 多分、悪い先生じゃないんだろう。生徒想いの先生って感じ。でも、不登校気味の人への声かけって難しいからなぁ。あまりガツガツ来ると逃げる奴もいるし。教師って大変だ。俺には教師やるの無理だな。


 俺、いや元俺? いや、また戻るんだから俺か。で、俺はスポーツ選手って性格的に合っていると思う。目標に向かって一人、ただひたすら走り抜ける。チームスポーツだと協調性もいるから、合うか分からないな。なにせ、友だちにも連絡取らなさすぎて疎遠になるくらいだし。


「あ、史郎」


 教室に戻ると、高野がいそいそとやってきた。たいした距離じゃないのにちょっと小走りなのが面白い。


「なにそれ」


 手には数冊の本がある。高野がドヤ顔で答えた。


「筋トレの本。史郎に教えてもらったから、自分でも調べてみようかと思って図書室で借りてきたんだ」

「へえ、図書室にもそういう本置いてあるんだ」


 本を見せてもらう。古めの本だったが、わりとためになることが書かれていた。


「基本的なことが重要だから、勉強するのは悪くないね」

「でしょ」

「なぁに、二人揃って私の話?」

「浅木」


 いつも急に出てくるなこいつ。注目されてないと泣いちゃうのか。パパママにアピールする二歳児か。


「浅木の話は絶対しないから安心しろ」

「え! 私の前でしか話したくないって?」

「言ってない」


 浅木が来ると調子が狂う。ちょっとどっかで隔離しててくれないか。俺たち以外に話してくれる友だちいないのかな。


「女子の友だちいないの」

「いるけど?」

「いるならそっち行けよ」


 いるのかよ。


「クラス別だし」

「なるほど」


 納得。クラスであれだけ女王様ムーブかましたらそれはそうだ。他の女子から嫌われているかは知らないけど、遠巻きにされていることは分かる。


「ねえ、また勉強会しない? テスト明後日からじゃない」

「もういいや。赤点取っても追試頑張ればいいって言ってたし」

「赤点前提なの? 私が個別指導しよっか?」

「だからいいって」


 めげない強さ、大事だけど少しは遠慮を知れ。


 午後の授業を眠気と共に終え、さっさと帰る準備をする。部活に行く連中が三分の二くらいで、帰るのはそれ以外。高校でも部活入る奴結構いるんだな。


「ねえ」


 つん、と背中を人差し指で押される。振り向くと、上目遣いの浅木。


「ほんとに勉強教えなくていい?」

「うん、平気」

「そっか」


 ちょっと寂しそうな声だった。そのまま手を振って別れる。


 ごめんな。俺、史郎であって史郎じゃないからさ。期間限定の史郎なんだよ。

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