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相談

「あの技の出し方、史郎の癖だよね」

「そう?」


 史郎とのゲーム修行の成果がさっそく出た。数日経ったある日、高野からそんな感想を言われたのだ。やった、俺のやり方史郎になっているんだ。まあ、史郎本人が対戦している時もあるけど、オンラインだから高野が知る由もない。


 今の俺と一番近いところにいる人間は高野。こいつに認められているならちゃんと史郎として存在していると安心できる。


「あの、そういえばさ」

「なに?」


 急に高野がもじもじしだした。なんだ、トイレか? そういう様子じゃないな。まさか、今度こそカツアゲ? そんなことを想っていたら予想外のことを言われた。


「痩せるのって大変だった?」

「痩せたいの?」

「えと、というか」


 またもじもじ。ああ、じれったいな。でも、高野だから何も言わずに待った。


「僕も格好良くなりたいんだ」

「俺、格好良い?」

「うん、すごく」


 マジか。かなり嬉しい。今は制服着て伊達眼鏡かけて前髪も長くしているから、ダサいんだろうなと思っていた。もしかしてそんなことないのか。痩せたから女子たちも興味本位でキャッキャ話しかけてきたのかと思ったけど、もうちょっと自信持ってもいいのかもしれない。


 女子からの好意はいらないけど、格好良く見えるのはいい。トレーニングもっと本格的に再開しようかな。


「いきなり痩せると体に悪いから、少しずつ落としながら筋肉を付けるといいんじゃないかな」

「うんうん、具体的には?」

「食事制限と運動。特に運動は大事。食事は一人前なら平気、オススメはブロッコリーと鶏の胸肉」

「参考になるなぁ」


 高野がスマホでポチポチメモを取る。完全デジタル派か。


「あと、目標があると良いかもしれない。こうなりたいとか」

「分かった。少しずつ始めてみるよ。また分からなくなったら聞いていい?」

「いいよ」

「ありがとう」


 高野がやる気に満ちた瞳で自分の席に戻っていく。それと同時に、浅木が俺の前に来た。


「ねぇ、私ともお話して」

「いいけど。あ、そうだ、聞きたいことがあったんだ」

「なになに? 私の何を聞きたいの?」


 浅木が指で髪の毛をクルクル弄りながら寄ってくる。うわ、髪の毛の先が顔に当たる。くすぐったいしウザい。


「お兄さんのことなんだけど」

「えぇ……お兄ちゃん。ふうん、それで」


 急にトーンダウンしたところ申し訳ないけど、俺は質問を続けた。


「どんな人?」

「どんな、どんな人ねぇ。私に優しいかな」

「いや、見た目とか」

「黒髪で背が高い」


 そういう男、いっぱいいるな。俺もそうだし。まあ、背が高いというところがポイントか。俺は平均より高いけどそこまでじゃないから、俺より高い黒髪を探せばいい。あとは手っ取り早く山田さんに教えてもらうか。


「なになに、お兄ちゃんに興味あるってことは私に興味あるってことだよね?」

「うーん、ポジティブ。無いよ」

「うそッ照れ屋!」


 興味が無いということを照れ屋で片付けて喜ぶ神経訳が分からなくてすごい。


「今度私の家来る? お兄ちゃんに会えるかも」

「それは遠慮しておくよ。気軽に女子の家には行かないことにしているから」

「しっかりしているところも魅力的ね!」


 結局、何を言っても浅木は喜んでいた。あれだけ脳内でポジティブ変換できるなら毎日幸せだろう。俺もあれくらいで生きていたい。


 なんだか当たり障りのない情報しか得られなかったけど、ケンカ強いなら体格が良いだろうし、三年がいそうなところに行けば見つかりそう。あとは浅木って呼ばれていればビンゴ。さすがに三年の教室の廊下うろうろするのは目立つかな。


 元凶らしい三年の浅木先輩を倒せばいいんだろうけど、いきなりそんなことをして果たしてうまくいくかどうか。


 そもそも、本当に浅木先輩が指示しているのか? あれはただの噂だ。これが違っていたらただの暴力を振るった犯罪者になってしまう。まあ、ケンカも暴力だけど、あっちからやってきたら正当防衛だ。


 もう少し様子を見るか。それとも下っ端っぽい奴らが悪事を働いていたらそこから叩いていくか。被害を少なくするなら後者だな。


 やっぱり、社長にいったん相談しよう。俺だけで行動して宮本家に迷惑がかかったらいけない。


『今日、そっち行っていい?』

『オッケー、パーティーの準備しておくわ』


──なんか変なこと言い出したぞおばさま。


 すぐ了承の返事が返ってきたけど、予想外のことが書かれていた。あの人の場合、これ冗談じゃねぇから。


 まあ、本当に嫌がることはしないところは好感が持てる。最初から何も変なことしないでいてくれた方がいいけど。少し鬱陶しいくらいが親って気もする。一度も伝えたことはないけど、社長のこといちおう親だと思っているから。



 放課後、俺は社長が経営する事務所、ではなく社長の自宅を訪れた。事務所だと人の目がある。いくら髪型を変えて眼鏡をかけていたって絶対バレる。その点、社長の家なら安心だ。なんなら、俺も高一まで住んでいた。


「ただいま」

「おかえり! ちょうど用意できたところよ」


 リビングに入ると、本気のパーティー料理が並んでいた。二人だからもちろん量は少ないけど、それでも普段の料理とは比べものにならない。


「これ、全部作ったの。すごいね」

「でっしょ。買ってきたのもあるけど、せっかく息子が帰ってくるんだもん。豪勢にしなくちゃ」


 俺も久々の手料理にテンションが上がる。さっそく座って手を合わせて箸を持った。


「いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」


 口に入れる。美味しい。やっぱ、誰かが作った料理っていいな。ブロッコリーじゃ飽きる。


「いっぱい食べて大きくなってね」

「もう上には育たないぞ」

「そうでした」


 社長にとって俺はいつまでも小さな子どもなんだろう。それを俺が気軽に手放してしまった。きっかけは社長だけどな。お互いに悪かったということにしておこう。


「で、今日はどういった用事?」


 食べ終わったところで話を切り出された。そういや何も説明していなかった。


「話すと長くなるんだけどさ。史郎の高校、最近荒れてるらしくて」


 かいつまんで今までのことを伝える。最初難しい顔をしたかと思えば、俺が話し終わる頃には喜々とした表情になっていた。何故。


「いいじゃない~! 悪い奴らを秘密裏に成敗! 強いだけが売りの聡士にピッタリ」

「強いだけが売りって言った?」

「あ、顔もイケメン! 機嫌直して」

「とってつけたように褒められても何も嬉しくない」

「とにかく準備しなくちゃね。変装道具なら任せて」


 そう言うと、社長はあっという間に道具を揃えて俺に渡した。

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