プロローグ - 退職
俺はファール・フォーリア。
このコロッサルという広大な世界には数えきれないほど多数存在するようなモブ職の工事関係の仕事に就いている。
正直俺はこんな仕事なんてやりたくもない、本当ならもっとやっていて楽しみを感じられる店でも開きたかったものだ。
でも仕事をしないと金が入ってくる先がなくなり、金が尽きてしまう。
金が尽きて餓死なんて何がなんでも嫌だ。
そんなことを心の中で嘆きながら、今日も嫌々、脳死状態で工事現場で働く。
ザクっ!ドバッ!ザクっ!ドバッ!(土を掘り、捨てる音)
工事隊長が大声で声を掛ける。
「お前ら!そろそろ昼休憩に行っても良いぞ!」
『「はい!」』
(はぁ、疲れたなぁ、帰りてえ。)
こんなやりたくもない仕事をずっとやっていて本当に良いのだろうか。そんな問いが俺の頭の中に時々フワフワと浮かんでくる。でも問いが飛んでくるたびに俺はすぐにその問いに答える。
否だ。
そうして俺がいつもの様に歩きながらぼーっとして考え事を頭に浮かべている間に、後ろから誰かが俺を呼んだ。
「おいファール!飯食いに行こうぜ!」
タールだ。
こいつは俺の工事仲間のタール・ドレアス。
俺とタールはこの工事現場に来た時から仲が良く、話題が良く噛み合う。
タールと話す事は、工事現場での俺の唯一の楽しみといっても過言ではないほどだ。
『おう、行こう。』
そうして俺たちは飯屋に着き、テーブルの向かいあった位置に二つの椅子がある二人席に腰掛けた。
俺たちは二人とも席についたと同時にメニュー表を見た。
料理のサンプル画像を見ながら、どれが良いだろうと考えた後、店員に声をかける。
『すみませーん!このステーキセットと健康サラダを一つずつお願いします。』
「かしこまりました。」
店員は了承すると即座に厨房に入り、食材を慣れた手つきで冷蔵庫から手に取り、料理を始めた。
一通り注文が終わり、俺たちはいつもの様に話を始め、食べ物が届くまでの間に、すっかり仕事の愚痴や趣味の話で盛り上がっていた。
『やっぱそうだよなぁ。』...
「そうそう!」...
そんな会話をしている途中、俺の人生を変えてしまう様な話題が一瞬にして飛んできた。
---「そういえば最近、ダンジョン攻略だけで生計を立てている奴なんかもいるらしい。」---
...俺は最初、この話題に馬鹿馬鹿しさを感じていた。何故なら俺たちが生まれた時からダンジョン攻略はろくに稼げもしない、いっちゃえばクソみたいなコスパの職だという固定概念があったからだ。...
『馬鹿馬鹿しい、ダンジョン攻略なんてせいぜい命のリスクを負った副業レベルだろ。』
...だが...
「いや、でも最近はダンジョン攻略で貰えるお金が増えたらしいし、その上ダンジョン攻略士なんていう職名までついているらしい。」
『まじ?』
...話が進むにつれて、俺はどんどん話に夢中になっていった。...
そこでさっきの話と二重になって驚かせる様な話がタールの口から飛んできた。
「話はここからだ、そのダンジョン攻略士ってやつは、元々どんな職業のやつでも、資格が何にもなくても就けるらしい。」
『つまり...俺たちでも...?』
「ああそうだ、どうする?」
俺たちは二人で目を合わせ、テーブルに腕をつき、ゆっくりと同時に頷いた。
『となれば作戦実行だ。』
俺たちは何も話していないのに関わらず、お互い完全にこれから何をするか分かっている様な様子で金だけをテーブルに置き、店を出て工事現場に向かった。
これまでウザく感じていた周りの人たちの話し声が今日だけは何とも感じなかった。
眩しかった太陽も何も眩しくない。
今だけは何をした時よりも清々しい。
何の迷いもなく足をそろえて工事現場に向かう。
俺たちはまだ昼休憩も終わっていないのにも関わらず、工事現場に戻り、工事隊長の目の前に立った。
美味しそうに飯を食べている工事隊長に対して、俺たちは一斉に口を開く。
「『工事隊長!』」
「何だ。」
「『俺たち、この仕事やめます!』」