プロローグ
この世界最強と呼ばれた一族 鷲宮一族 次期当主候補の五人兄弟 この作品の主人公鷲宮陽翔は三番目の次男。鷲宮家の持つ最強とは何か、なぜ最強と呼ばれているのか。そして陽翔は一体何ものなのか。謎に包まれた一族、命を懸けてても守るものとは何か。
何度目だろうか、この夢を見るのは。
何度目だろうか、この声を聞きたいと思うのは。
何度目だろうか――このまま目覚めなければいいと、願ったのは。
夢の中で、いつもあの空を見る。
空には“七つの星”が螺旋を描いて回っている。言葉では言い表せない異質な景色――けれど、どこか懐かしい。
声がする。優しく、それでいて恐ろしい声が。
『使命を果たせ、陽翔。お前は“鍵”だ。』
そこで、夢は終わる。
⸻
「……っ、ハァ……ッ」
濃密な血の匂いと硝煙、焦げた金属の臭いで、現実に引き戻される。
地面に膝をつく。手は震え、視界はぼやけ、体中が痛みに悲鳴を上げていた。
それでも――この使命を果たすまでは終われない。
まだ倒れられない。この国を、そして、愛する人たちを守るために。
自分の命なんて、もうとうに預けた。
「鷲宮の名にかけて……兄さんたちが来るまででいい。あと少し、耐えろ……!」
呼吸を整え、立ち上がる。
ここはもう戦場だった。崩れた建物、瓦礫の山、遠くで燃え続ける街並み。
敵は多勢。自分はただの一人。――それでも退けない。
「すまないな。相手が悪かったようだな。鷲宮の次男だからって、見くびるなよ!」
それが陽翔の戦場での矜持だった。
全身全霊を賭ける。もうあとがない。失敗だけは許されない。
限界を――とうに超えている。
あと持って、2分。いや、1分半かもしれない。
(頼む……持ってくれ)
そのとき――銃声が響いた。
このタイミングで敵の増援。
それも、正規部隊とは異なる……見たことのない装備。
陽翔の中で“なにか”がざわめいた。
(あれは……夢で見た……?)
黒地に金の“七芒星”。まるで夢の中に現れる星々のようだった。
「全く……俺の最後は、こんなにも残酷だなんてな……」
苦笑しながら、陽翔は視線を巡らせる。
民間人は全員避難済み。ここを破壊しても、罪に問われるのは兄たちだろう。
炎が周囲を飲み込む。まさに火の海だった。
だが、それでもなお進まねばならない。
彼の体には、すでに無数の傷が刻まれていた。
もう何発の銃弾を避け、何度倒れ、何度立ち上がったか、覚えていない。
一騎当千――その言葉の意味を、今まさに自らの血肉で示していた。
そして――限界が来た。
バランスを崩し、膝が崩れ、視界が揺らいだ。
ここまでか。そう思った、その瞬間。
「――はると!!」
遠くから声がした。
聞きなれた、あたたかな声。姉の声だった。思わず涙が込み上げる。
「陽翔! よく耐えた! 遅れてすまない、あとは兄さんたちに任せなさい!」
その姿を見た瞬間、陽翔の心はほどけた。
ようやく来てくれた、希望の光。
鷲宮家の長男・長女、最強と呼ばれたふたり。
彼らの背には、“蒼い紋章”が瞬いていた。
それを見た瞬間――陽翔の意識が、安堵と共に沈もうとした。
だが――
「きゃっ!」
女の子の声がした。敵兵に捕らえられている。
どうして? 民間人は全員避難済みのはずだ。ここに残っているわけがない。
その少女は、どこか虚ろな目をしていた
だが、瞳の奥に一瞬だけ“金色の光”が走った。
陽翔は言葉を失う。
(まさか……彼女……)
考えるよりも先に体が動いていた。
最後の力を振り絞って、敵兵の方へと跳ぶ。
「兄さん、姉さん……せっかく助けに来てくれたのに……すまない」
彼は少女を庇うようにその場に立ちはだかる。
周囲の音が、どんどん遠のいていく。
まるで水の中に沈むように、世界が静かになる。
「――陽翔っ!!」
最後に聞こえたのは、兄の叫び声だった。
そして、闇が訪れた