6.とても簡単なことだけど意外と気づけない
コンビニで珈琲缶無糖を購入して家に帰った。
気を取りなおそう。幸いまだ最初の敵、傷は浅い。
セーブはこまめに、オートセーブが全盛の現代、忘れかけていた真実だった。
ああでもガチャを引くと強制オートセーブらしいのでそこは気を付けた方がいい。
あとは有料データを落してもオートセーブだから気を付けて。
でも自前のセーブだっていいことはあるんだ。失敗しても少し前に戻れるというのは、利点だと思う。
原因究明のためネットサーフィン。
反則だって? いやいや円滑にストーリーを進めることの何がいけないと言うのか?
こういう育成要素のあるゲームは、ストーリーすべてがチュートリアルみたいなものだと思う。
して何がダメだったのだろうか? どうにも敵が硬すぎた。
そしてこちらに攻撃もやたら効いた気がした。
「……なんと」
そして、検索の末答えに辿りつくと、なんというかとても簡単なことだった。
「属性合わせればいいって? 属性って色か?」
そこで私は、サファイアさんの話を思い出した。
名前がヒントってなんだ?と思ったが。ヒントはそのまま答えのようなものだった。
「サファイアは青。ああ……」
そして慌ててゲーム内のショップに入ると、あからさまに怪しい武器があるではないか。
グリーンエッジ。
そのウエポンスキルは、緑属性の攻撃補正を上げるだった。
「まさかの当たりが真ん中とは……これは一本取られた」
というか、ネットを見ないと気が付かなかったという事実がちょっと恥ずかしいまである。
サファイアは青。つまりあの重装甲重機は、おそらく青の属性か。
青の属性に強いのは緑属性のようである。
さらに私はクレソンのパラメーターを確認した。
確か着せ替えをすれば色属性が変わるんだったか? いや着せ替えずとも、服の色を調節すればいいか。
カラーパレットの緑に寄せれば、色属性は簡単に変わる。
属性の大切さを教えてくれるチュートリアルだったと?
ああでも、武器も変えるならBコアがまた必要か。
「……バグ! バグを倒さないと!」
勝利の道筋は見えた。さあ張り切ってバグ狩りである。
色の関係性は
黄色→緑色→青色→紫色→赤色 そして赤は黄色に強い。黒と白は別枠で黒は白お互いに2倍。
それはともかく、今私のクレソンの属性は白だったが今は衣替えして緑にチェンジだ。
元の白だと、レベルがそんなに高くない現状、属性の大切さを教えるべくデザインされたバグ相手だと、ちょっと火力が足りない。
なんて狡猾な。
普通のゲームと違って、武器に攻撃力がないとか意表をついて来たのも仕掛けに見えて来る。
何にせよ、私はまんまとトラップに引っかかったということか。
今度は万全に準備を整えた私は今一度試験会場に舞い戻った。
待っていろよサファイヤ。目にもの見せてくれる。
私が試験会場にやってくると先ほどと全く同じやり取りが展開された。
よし分かった。じゃあ倒す。
「攻略のヒントは私の名前だよ」
若干イラつき気味なのでセリフはスキップ。
一応スクリーンショットは撮影したけど。
前回と同じサファイアの言葉を合図に、巨大バグが出現して、動き出した。
わかっているとも。やったりなさい緑クレソン!
なんだか緑になったことで、よりクレソン味が増した今のクレソンなら勝てない道理もないだろう。
ガガーン!っと重そうな音を立てて吼える重装甲バグを前に、クレソンは安定の無表情だった。
先行のスラッシュ。
駆け出すクレソンの動きの切れは、心なしか初戦とは段違いに見える。
そして突き刺さった一撃は、面白いようにバグのゲージを削り取る。
ガオーン!
巨大バグは装甲の隙間から煙を吹いて、ふらつくエフェクトは初めてみた。
「きいてるきいてる!」
思わず口に出す私は、流れを感じた。
今回も飛んできた因縁の薙ぎ払い攻撃は、クレソンに命中したがゲージは白より減りは確実に少ないのが目に見えた。
耐久戦はきついかもしれない。だが今回は決め手がある。
クレソンは畳みかける。
そして―――スラッシュを繰り返し叩き込んだ末に、ガクガクと震えだした重装甲バグは、膝をついて倒れ、空間にノイズを残して消えていった。
「やったー! おいおい楽勝じゃねーかー」
勝ったから言えることである。
条件を整えるとここまでスパッと勝つことが出来ると言うのか。今回は間違いなく完全勝利―――前の私の犠牲は無駄ではなかった。
バグを倒すと、拍手しながらサファイアさんが再び姿を現した。
もっかいスクショ撮ろう。
「おめでとう。これで限定解除試験終了。合格だよ。君は2体のAペットを所持する権利を得ました。これからの君の活躍―――期待しているからばんばって」
はい! がんばります!
ポンと肩を叩いて、消えるサファイアさん。
おお、これで限定解除試験、やったったようだ。
これで2体目作れるんだよね? それは気合を入れて2体目を製作せねばならない。
どうでもいいことだが、カラーパレットで属性を変えられるのは、インナーしか着ていないからなんだとかうっかりネットで見てしまった。
いやいや本当にどうでもいい話なんだけど。
……そのうち、お店で服を買っておしゃれしてあげよう。
私は勝利を噛みしめ、背もたれに体重をかけた。
そしてしばらくすると、なんとなく部屋のベランダから外に出て、まだ温かさを残した缶コーヒーをプッシュリと開ける。
グビリとコーヒーを飲んだ私は、思った。
この星の勝利はとても染みる……。