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5・試練を超えて

「おや? 君は新人さんだね? さっそく来てくれて嬉しいな」


 とりあえずスクショを保存。


 こちらこそ出会えて光栄です。私も大変嬉しい。


 コミューンの中央にある巨大なドームに彼女はいた。


 オーバーオールに麦わら帽子という、なんとも牧歌的な雰囲気の女性型Aペットは人懐っこそうな笑みをうかべて、こちらに手を振ってくれた。


「私の名前は、サファイア。このファームコミューンの管理をしているよ」


 へーやっぱりそうなのか。素晴らしい。


 サファイアのボディは背が高く、その上で女性らしさも併せ持っているのはオーバーオールを着ていてもよくわかる。


 でっかくどこか包容力を感じるなごみ系の美女それがサファイアだった。


 ただ管理者ともなると、普通のAペットと違ってボディがアンドロイド的だと言うのに人間っぽい表情をする。


 やはりダイアや彼女は特別だと言うことなのだろう。声付きだし。


 その特別なサファイアはさてと手を叩いた。


「限定解除試験は簡単だ。君は君の作ったAペットの力を私に見せてほしいな。試験官は私。さぁ

君の想像力を見せておくれよ」


 そう言ってサファイアさんが姿を消すと、床からノイズを纏わせて大きなバグが姿を現した。


 戦車の様な分厚い装甲と巨大な剣を持ったバグを見た私は思った。


 いやいやデカすぎじゃない?と。


 戸惑っている私に、どこからともなくサファイアさんの声が語り掛けて来た。


「バグからみんなを守るのが、何よりのAペットの役割だ。この疑似バグは試験用に用意した特別製だから、どんなに壊してもらっても大丈夫。攻略のヒントは私の名前だよ」


 サファイアさんはそう言い残していたが、いやこれ私のAペットがぺしゃんこになりそうなんですけど?


 私が何か言う間もなく、重装甲バグはゴクンとひと揺れして動き出す。


「頑張れクレソン!」


 私はクレソンを呼び出した。


 光のエフェクトと共に現れたクレソンのレベルは10ほど。


 とりあえずここまでで出て来たクリエイターはざっくり倒した。


 ぶっちゃけた話、最初の敵でそんな難しいことないだろう。


 私はセーブなどせず、自慢の装備を引っ提げて重装甲バグへ挑む。


 まずは小手調べ……スラッシュ!


 クレソンは先行を取って、巨大な敵の懐に飛び込んで痛快な一撃を敵に叩き込んだ……はずなのだが、ダメージは期待ほどではなかった。


 あっれー? 武器高価だったんだけどな? こんなもんなの?


「!!!……」


 敵ターンにはごっつい腕が横凪ぎに飛んできて、ぶっ飛ばされた。


 シャドウソードはどうした! 回避率高くなるんと違うのか!


 いや、とり乱しました、もうし分けない。考えてみれば、ターンバトルでそんなポンポン当たらなくなるってゲームにならんわ。


 あの効果は、避けたらラッキーくらいに思っていればいいということか。


 変な過信は負けを呼ぶ。一つ賢くなった。


 では落ち着いて。スラッシュが効かないと言うのなら、新たな技を使うだけだ。


 となればダブルスラッシュしかない。


 新しく覚えた技に私は大いに期待を寄せた。


 何せ一ターンに二回、二回も攻撃できる! そんなの強いに決まっている。


 不安と期待を込めて、ダブルスラッシュ。


「……!」」


 クレソンの体が霞み、電光石火の二連撃がバグを襲う! 


 ガガンと火花が飛び散って、みるからに大ダメージって感じだったが……ダメージは期待していたほどではなかった。


 あっれー? おかしくない? やっぱりゲージの減りが渋くない?


 あの装甲は張りぼてではないということか?


 いやそれ負けちゃうんですけど?


 薙ぎ払いはクレソンのゲージを四分の1ほど持って行ったのだが、どうなってるのよ?


 若干の不安を感じDアップを挟む私である。


 しかし、その時重装甲バグは小刻みに震えだす。


 そして高く両腕を振りかぶると、クレソンに向かって飛び掛かり、その重機の様な腕を思い切り振り下ろした。


「ぬあ!!!」


 明らかにヤバそうな一撃。


 クリティカルのエフェクトが弾けると私の全身にヒヤッと寒気は走った。


 ダメージゲージの減りがやばい!


 何とか耐え忍んだクレソンだが、体から放電してふらついていた。


 どどど、どうすりゃいいのこれ? 回復アイテムすらそんなないんですけど?


 というか、武器しか買ってないんですけど?


 まさかのハズレウエポンスキルかドッペル。


 現状単純すぎる技構成で殴り合うしかない今、明確に失敗の二文字が頭をよぎった。


 「うおおお! スラッシュ!」


 私は、最後の力をふり絞りすがるように指示を出す。


 エフェクトは同じだが、カツンと中々しょぼい音が心の中では聞こえた気がした。


 振りかぶられる腕。


 クレソンの表情は相変わらずロボット口角筋だが、絶体絶命である。


 だが! まだワンチャン! そうシャドウソードのドッペルがある。


 私は祈った。


 だけどクレソンは無情にも叩き潰されて、ゲージはゼロを刻んだ。


「……」


 プツリと電源が落ちるようにブラックアウト。


 ゲームオーバーとなるとセーブポイントからやり直しとなる。


 ……あれ? どこでセーブしたんだったか?


 私の視界もブラックアウト気味だ。


 あーあーもうダメだ。おしまいだ。


 ひとまず私はゲームを止めた。


 ……買い物でも行くかな? 脳みそが妙に疲れたし、チョコレートでも買ってきて、気分転換にフォンダンショコラでも作ってやろうかしら?


 頭の中で生地の中からとろりと流れ出すチョコレートが鮮明に浮かび上がって、それだけで不足気味の糖分が回復した気がした。

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