3.その声を私に
ベーコンをカリカリに焼くのはコツがいると思う。
低温でじっくりと時間をかけて焼くには忍耐がいる。
焦げ付きすぎないように日和ると絶妙にシナッとしている気がするし、逆に火力を上げて急ぐと焦げてしまう。
そして一口にベーコンと言っても、豚バラに近いものが出てきたり、はたまたハムに近いものがあったりと多種多様。
しかし様々なベーコンを試してしまうのは、私の中に理想のベーコン像が確かにあるからなのだろうと思う。。
自分でもなにを言っているのかわからないが、とにかくベーコンはうまいと言う話である。
何枚かのベーコンを焼き、両面焼きの半熟卵をトーストに挟む。
ソースはケチャップと、マヨネーズ……そしてマスタードを混ぜることでハンバーガー味が増すと思う私である。
がぶりとかぶりつきながら、コーラを飲む。
アメリカンな気分になった私は思ったよりもカントリーな雰囲気のデジタル空間を眺めた。
ファームコミューンは長閑な雰囲気漂う始まりの地。
コミューンは複数あって、そのコミューンごとに特徴がある。
プレイヤーはコミューンを巡って、資格を解除することでAペットクリエイターとして一人前となり、大会に出場する資格を得ていくようだ。
このファームコミューンに私の工房はあるが、ステージが進むごとに好きな場所に工房を移せるようだ。
このゲームは電脳空間をイメージして作られているらしく、すべてはデータで出来ていた。
工房もデータを移し替えることで好きなコミューンに拠点を移せるということらしい。
私は周囲の探索をしながらファームコミューンを歩き回る。
ファームコミューンには牧場のような場所があり、柵の向こうに農業用フォークを担いだおじさんがいたので話かけてみた。
「おや? 見ない顔だね。新しいAIかな? こんにちは新入りさん。このファームコミューンは動物や植物データを製作するコミューンだよ。設備が少ないからあまり人気のないコミューンだけど、自然豊かでゆっくりするなら一番さ」
おおっと。動物や植物のデータとな? 思ってもみなかったところでSFな要素ぶっこんで来たな。
AIおじさんは親切そうだったが、セリフは長めだった。
「Aペットがいないなら、町の外には出ない方がいいよ。外にはバグが出るからね。AIはAペットにセキュリティを任せているから危ないのは知っているだろう? ファームコミュは広くて町の境目が曖昧だから、よくバグに襲われるAIが出るんだ。君も気を付けるんだよ?」
あ、はい。ありがとうございます。
めちゃくちゃ親切なおっちゃんだな。戦闘力5かな?とか思った私を許してほしい。
おじさんの話では、モンスターに該当するバグというものが存在しているようだ。
じゃあAペットいるし町の外行ってくんね?
モンスターを倒すのはRPGの基本。
ではそのバグとか言う経験値の素どもをサクッと倒しに行くとしよう。
牧場を抜け、外らしい所にやって来た私。
「お!」
しばらくうろうろしてみると、なんか出た。
画面が砂嵐のように乱れるエフェクトが不安感をあおる。
飛び出してきたのは、電気のようなエフェクトを纏う錆びたロボットのような敵だった。
「これがバグ」
倒していいと言うよりも、すぐさま消さなきゃまずい感じである。
序盤だからか丸っこく炊飯ジャーに手足がついたようだが、ボーリング玉のような光る目がクルクル回りながら明滅していた。
スラッシュ!
粉砕!
うん序盤だからサクサク狩れるね、優しい!
ではちょっとだけ、お試しの時間である。
我がクレソンは今日も見ているだけでも、美しい。
基本技しか持っていないが、戦闘モーションは凝っていて色々衣裳を変えてやってみたいものだった。
バグ(モンスター)を倒すと、色の付いた石のようなものをドロップしたようだ。
Bコアとあるそれは、この世界でお金と同じ意味を持っている。
バグを倒すことで経験値と共に手に入れられるわけだ。
「よし、ちょっと溜めていこう」
しばらくバグを破壊してBコアを確保してから私は町に向かう。
地味にレベルが上がって、スキルのDアップも覚えられたのは収穫だった。
今度は建物があるエリアを目指すと、そこには人、というかAI達が沢山いた。
「ようこそファームコミュへ! ここは緑が育む、AIの町。君Aペットクリエイターなんだな! この町のクリエイターは少ないから頑張ってくれよ! 応援してるよ!」
あ、はい。ありがとね。
そうかクリエイター少ないのか。ということはリコちゃんとの遭遇率は高いのかもしれない。
私は町の中を散策すとさっそくショップを見つけて中にはいった。
ショップの中にはやたら整った顔立ちの青い髪をした店員がいて、頭を下げてくる。
私はなんとなく興味を惹かれてボタンを連打せずに見ていると、なんとこの店員、ボイス付きだった。
「いらっしゃいませ。ショップ専用Aペットです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
―――え? ボイス付きだと? うちの子にもないのに?
抑揚のないロボットボイスだが、まぎれもなくそれはフルボイスだった。
ちょっと待とう。
私はいったんゲームを終了して、ホーム画面に移動する。
「アニマペット……声のつけ方……」
あ、ガチャ。ピックアップのボイスユニットってそう言う?
ガチャはオンライン対戦ではほとんど意味がないという話だったけどそう言うことか。
人気声優さんのボイスユニットと、人気クリエイターさんデザインのオリジナル衣裳Aペットがピックアップ中なのだとか?
ゲーム内通貨で引けるがランダムで、必ず手に入るわけではないらしい。
ちなみにリアル通貨で1500円ほどでも販売もしているのだとか。
なるほどなぁ……なるほどなぁー。
ボイスは互換性のあるデータで他の媒体にもあてはめられるんだそうだ。
なるほどなぁーーー………。
持ち運ぶものはてれるが……私はPCにでも入れちゃおうかな?
「はっ! ストーリーもよくわからんのに考えることではなかったか!」
私は好奇心を押さえて冒険へと戻る。
……やっぱり引いちゃおっかな? いやいや、待て待て自制心を高めろ私。
ボイスは想像力でとりあえず埋める! 人間の想像力は偉大である。
ロボ子なら無口もアリ、いやむしろいいまである。そんな気がした。
私のクレソンは唯一無二なのでどちらでもかわいい我が子である。
ではゲームの中のショッピングに戻ろう。
「初めてのお客様ですね。ショップではAペット用のアイテム、装備などを販売しております。Bコアを通貨として使用できますので、お気軽にお立ち寄りくださいね」
何だか色々あるようだが、とりあえずは装備が欲しいのでお買い物だ。
しかし……まだ足りないか。残念ながら眺めた装備は少々お高いようだ。
一応回復できるアイテムを一つ買って、今回は終わりとしておこう。
「ありがとうございました! またのご利用をお待ちしております」
ニッコリ。
私はボイス付きの可愛い笑顔にほっこりした。
ええんやで。またすぐ来るからよろしくね? あと君の声が欲しいんだけど?
……ちょっとこのセリフは我ながらサイコパスっぽいな。
ちなみに店員のボイスはピックアップ対象外のようだった。