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2・ライバルに出会う

 チョットブレイクタイムで。


 あっついコーヒーを豆から抽出し、香ばしい香りを堪能して精神を鎮静化する。


 ブラックコーヒーのお供は、色とりどりのマカロンだ。


 軽い食感のおやつはとにかく甘い、今食べてるこれが特別甘い。


 脳がとろけそうなある種の刺激に、コーヒーの苦みはジャストフィットだった。


 あー落ち着いた。ではちょっと言い訳を。


 少しばかり構図にこだわってしまっただけなんだ。


 女の子の声に向かって二度、三度頭を下げたのは、どうにか観なかったことにしてほしいという、心の表れである。


 しかし私は話しかけて来た女子を見てハッと目を見開いた。


 Aペットがどこか人形というかアンドロイド的な特徴があるのに対して、話しかけてきた彼女にはそれがない。


 そこにいたのはAペットではない、女子だったのである。


「私リコ、私はこのファームコミューンでクリエイターしてるAIだよ。そのAペット……あなたが作ったの? とっても綺麗な子ね!」


 おや? どうやら不審者を糾弾しに来たわけではなかったらしい。


 ビビらせやがって。


 彼女の言うAIというのは、いわゆるこの世界の人間の位置にある住人で、クリエイターのほとんどはこのAIであるらしい。


 この世界で暮らすAIを助けているのがAペットというロボット、という感じのニュアンスの理解でいいようだ。


 しかしこのリコちゃんという美少女、どうやら私の作品に興味津々のご様子。


 そりゃあそうだ、一時間もかけた力作だからな。うちのクレソンは最かわである。


「じゃあさ! さっそく挨拶代わりに! 私とバトルしてくれない?」


「!」


 なんということだろう、出会って5秒でバトルとは中々の戦国時代っぷり。


 世はまさに、クリエイターが群雄割拠しているということか。


 だがよかろう。受けて立つ。


 甘いものも食べたし、私の準備は万全だった。


「チュートリアルか、そう言うことだな?」


 間をおかず、私とリコの間にドーム状のワイヤーフレームが展開され、バトルフィールドが出来上がった。


「来なさい! リコリス!」


 そう叫んだリコの前にバシュンと光の柱が現れて、Aペットが姿を現した。


 長い髪のAペットはちょっとカッコイイ和服だが、顔の造形はそのままリコを大人にしたようなデザインだ。


 なるほど……理想像かな? いいじゃないリコちゃん。


 Aペットクリエイターはその造形力も試されるようである。


「じゃあ行くよ!」


 しかし、新人をわからせていくスタイルはいただけないのではないだろうか?


 こいつはこちらも本気で事に当たらねばならないだろう。


 さぁいくがいいクレソンよ。まだスキル欄一つしか埋まってないけどな!


 二体のAペットが対峙する。


 リコリスは、その手に刀を装備しているようだった。


「いくよリコリス! 君の力を見せて!」


 見事に刀を操り、リコリスは切っ先をクレソンに向けた。


「一閃!」


 突っ込んできてからの居合抜きの一刀は瞬時にクレソンのHPを切り取った。


 どうやら奴のスピードはこちらよりも上のようだ。


 猛烈な斬撃がリコリスの身体を破壊する。


 光のエフェクトが飛び散り、クレソンのゲージが削り取られたが、減りはいまいちだった。


 うん、ダメージはほどほど。


 クレソンは剣を構えて、唯一のスキルで切るしかない。


 「スラッシュで」


 クレソンはダメージに怯むことなく大きく振りかぶった大剣で、袈裟斬りにリコリスを切り裂く。


 チビッとだけ相手より多めのダメージに私はニヤリと口元を緩ませた。


 まぁいわゆる……なるべく勝てる感じなのだろう。


 ちなみにスラッシュは剣の基本技で一閃は刀の基本技の様だ。


 お互いに一定のダメージを与える技しか持ってないつまり―――。


「うん。殴るしかない!」


 それしか攻撃技ないんだから仕方がない。


 私はまぁチュートリアルだしなと生暖かい目でクレソンとリコちゃんのリコリスを眺めていた。


「いや……でもこれ、ヤバくない?」


 だけど案外思っても見ないほど、冷汗の出る勝負になってきた。


 こちらに有利なはずだが、ダメージゲージの減りがやばい。


 これ一手、負けるんじゃない?


 私達はちょっとずつお互いのダメージゲージを減らしていたが、順番的に先に0になるのはこっちな気がする。


 さっき確率で入ったクリティカルが悪さをしているのかも。


 いやちょっと待ちなさいよ? 旅立ちの最初の一歩で躓くわけにはいかんのですよ!


 お願い! クリティカルとか入って! 10円あげるから!


 もっかいチュートリアルは長い!


 どうでもいい叫びがその時奇跡を起こした。


「リコリス! Dアップ!」


 そんなの持ってたの? 私は持っていないのに!


 リコちゃんの口にした行動は、なんとちょっとだけ防御力を上げる初心者に実装されたガード技だったのだ。


 しかし、すでにダメージゲージはミリ。


 それすなわち相手のミスによる、逆転勝利だった。


 相手は光の粒子となって砕け散り、私は勝利を収めた。


「あっぶないわー……あやうく死ぬとこだった」


 最初の最初でぎりぎりの勝負とか勘弁してほしい。


 だが勝利は勝利。勝てばよかろうなのだよ。


 さぞかし悔しがっているだろうと思ったリコちゃんは、しかし一点の曇りもなく微笑み私に言った。


「ああー負けちゃったかー。うん! いい勝負だったよね! ありがと! 君、いいクリエイターになるよ! じゃあ! 今度は負けないからね!」


「……」


 なんたる爽やかさか。


 どことなく己の小ささを思い知らされた気分である。


 そしてさっと手を振り颯爽と去っていくリコちゃんの後姿を見た私はハッとした。


 まさかこれは花を持たされてしまったのでは?


 だってあのタイミングで防御上げる理由って言ったら勝ちを譲られたに決まっている。


 何も知らない新人クリエイターに最初の歩き方を教えてくれるためにあんな強引な手を?


 あの雑なAIかと思われた動きは先輩から後輩に向けた小粋な贈り物だったと?


 リコちゃん……好きぃ!


 私はちょっとした自信を胸に改めて冒険への一歩を踏み出す。


 早めにリコちゃんに追いつこうっと心に決め、私はマカロンを一つ食べて甘い予感に思わずにやけた。


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