13・シティコミューンをクリアーしよう
調子に乗ってサツマイモにはまったら、あんまり甘くなかったので、スイートポテトにしてみた。
甘さが足りないなら砂糖をぶち込めばいいのである。
潰すのが少し手間だが、粉もなくケーキっぽいものが出来上がるのはちょっと楽しい。
やっぱり芋のお供のミルクと共に準備を整えれば、案外食べ応えのあるお菓子はいい具合にお腹を満たしてくれることだろう。
完成したそれを一口食べる。
「うわぁ……うま」
まだ芋感の残る口当たりは、自作の味だがさつまいもとバターが舌の上で混ざると、無敵であることを、私はよく知っていた。
唐突に始まったサブイベントは幸い長くはなかった。
あの悪の秘密結社というには、少々ネタに走りすぎている奴らが一体何をしたかったのかはよくわからないが、大量にAペットを盗んでいると言うのなら少しくらいかわいいAペットを出してくれればいいものを。
私としてはノイズーラは全体的に期待外れと言わざるを得ない
ではいよいよ本命に行こう。
無事フラグは立ったようで、メンテナンスとやらは終わったらしい。
限定解除の施設は白と黒。ツートンカラーの正方形が並ぶ、積み木細工のような空間だった。
「ようこそ。まずは賊の排除感謝いたします。それではさっそく始めましょう。物事は効率的なのが一番ですから」
まずはスクリーンショットを一枚。
私を待っていたのはコミューンの入り口で挨拶してきた管理者であるシトリンだった。
周囲を沢山のディスプレイに囲まれた空間に座っている秘書風の彼女は私に視線を向けるとぱちんと指を鳴らす。
地面から出てきたのは様々な武器を持つバグたちである。
一糸乱れぬ動きで武器を構えるバグたちは、一人一人特徴的な構えを見せつけ、自分の武器をアピールしているようだった。
「彼らを撃破してください。攻撃力はそう高くありませんが、条件を満たさなければ破壊することが出来ません。それではご検討をお祈りしております」
「なるほど」
それだけ言ってやはりシトリンは消えてしまう。
これは私にも分かった。
つまり今度は色ではなく武器の相性を問うて来ているわけだ。
でも味方の機体が2体しかいないのが問題である。
当てはまらなかったらどうするんだろうと思っていると、出て来たバグの中から2体が前に進み出て他は消えてしまった。
「おお、親切」
こちらの装備している武器に合わせて、2択に絞ってくれるのか。
前のエリアのオペレーターは結構厳しめだったが、今度のオペレーターはずいぶん丁寧なようだ。
現在クレソンの装備は剣、スピニッチは斧だ。
対して敵のバグの装備は刀と盾。どちらかがどちらかの弱点だということか。
「……相性、相性だな? えーっと……」
私は考え、そして方針を決定した。
うん忘れた。
まずは調べる。ネットこそ最強である。
「えー……武器の属性は7種類あるのね。えー弓は銃扱いだから注意かー」
絶対混乱する気をつけよっと、おや。失礼。
では的確に弱点をついていくとしよう。
まずは刀を持ったバグがひょこひょこ出てくる。
対して迎え撃つのは、先頭に置いていたクレソンだ。
「このゲームは刀がやけにカッコイイ気がする」
気のせいでないなら、輝きとか少し違う気がする。
リコちゃんのリコリスも持っていたが、わざわざ似たような武器で種類をわけているだけあって、刀のイメージについて、徹底している節がある。
調べたところによると覚える刀のスキルの中には漢字のものもあるんだとか。
それはともかくSD体型ながら無駄に剣道部のような決まった構えをとるバグに対して、クレソンは剣を構えて先制した。
ではやってしまうがいい。ダブルスラッシュ。
一拍に二つの剣閃が決まり、一撃で敵バグはHPを削られて崩れ落ちた。
おや絶好調。
しかし問題はここからだった。
続いて出て来た盾を持ったバグに私はひとまずクレソンを続投した。
いや、だって攻撃したらどうなるか気になるじゃん?
ひとまずスラッシュ。
ひょっとするとレベル高めだし、弱点をつかなくても一撃なんじゃない?と思ったのだが、残念ながらダメージはないようだった。
「ゼロって言うのは……あんまりにも露骨じゃないか?」
やはり弱点をつかなければ突破できない仕様のようだ。
生き残った盾バグはどこか得意げに盾を構えていた。
よし。では今回のキーキャラであるスピニッチを出すとしよう。
「地道なレベル上げはちゃんと規定値に達しているかな?」
でっかい筋肉は、斧を構えて前傾姿勢で飛び出した。
斧の一撃……の前にちょっと心配なので、ストーリー限定アイテム『アタックコード』というアイテムを使ってみた。
これは攻撃力を上げるアイテムで、まぁレベルが低いスピニッチへの補助だ。
相性はいいみたいだし一撃くらいは耐えるだろう、そこから返す斧で仕留める。
だが盾を構えたまま、バグは動かない。
いきなり目論見が外れてしまった。
「……あ!」
これはひょっとして。盾だからか? あ、斧にしたのは正解だったかもしれない。
そしてマイターン。
スピニッチのクラッシュ!
単純な斧のスイングが、盾を砕く。
「……!!!!」
盾バグが大きくのけぞり、本当に盾が砕けてしまったあと、盾バグは後ろにひっくり返った。
盾は防御に使えるスキルも多いが、弱点属性を前にしてはその効果も半減である。
もっとめんどくさいことになると思ったが、あまりにも手ごたえがなさ過ぎて拍子抜けしてしまった。
「あれ?……簡単に突破出来すぎじゃないか? アイテム使ったって言ってももうちょっとスピニッチじゃかかるかと思ってたんだけど……」
どういうことだろうと頭をひねっていたが、私の不安をよそに普通にゲームは進んでいった。
「素晴らしい。効率的な動きに美しさすら感じます。相手によって適切なスキルを見極めれば、より確実な勝利が約束されるのです」
再びシトリンが現れてテストの終了を告げられれば、それはもう納得せざるを得なかった。
「あなたの制限を解除します。私はあなたの今後の活躍に期待します」
パチパチと拍手を送られた私は、試験の終わりだと理解する。
あ、うん。ホントウに弱点着けばそれで終わりの試験だったのね。
それで? 私のアタックコードは? ああ、返ってこない? そう……。
あんまり効果はなかったけれど、私は未知に対して安全策をとったのだ。
使う必要のないアイテムを失い、単に損をしたのだとしてもそれは問題じゃない。
これは安心に対する保険、そう! 保険だったのだ!
全然悔しくなんてない。ホントダヨ。
私は心の言い訳を納得するまで呟いてログアウト。
「……ふぅ」
息を漏らしながら今度はコーヒーで口の中の甘みを洗い流して、精神的防御力をちょっと高めた。