12・イベントを終わらせてフラグを立てないと先に進めない
焼きいも焼いたよ。
「……あちゅい、あちゅい」
あっついのを我慢して、芋を真ん中からぽっきり割る。
とたんに上がる湯気は、ふっくら中まで温まった証だ。
マグカップにミルクを用意。パターを用意して、アツアツのサツマイモの上にたっぷり乗せると、程よい熱でとろりと蕩けた。
バターが溶けるきる前に、かぶりつく。
ホクホクしたさつまいもは舌の上でねっとりと広がって、甘みがしっとり後から広がっていった。
「ああ、当たりだな」
ちなみに私の好みは昨今の、水分と糖分が多いネットリ強化の物よりも、芋に近いホクホクしたもの。
そしてごくまれに強い甘みとホクホクを両立したものを当たりと呼んで楽しみにしていた。
最期にバターの風味と甘さが後を引いている中、牛乳を飲む。
これぞ私の黄金パターンだ。
ではお腹もほっこりしたので、ゲームを始めよう。
とりあえずさくっと、このコミューンで限定解除して3体目のAペットを手に入れてしまいたい。
どう考えてもこのゲーム、メンバーが多い方が戦略の幅が出て有利になる。
私はさっそく準備を整えて限定解除ができる会場に向かったのだが、入口に掲げられた看板を見て立ちすくんでいた。
メンテナンス中に付き、立ち入り禁止。
「そんなことあるぅ? ……あるか」
まぁメタ的な意見になるが、まだフラグを立ててないってことなんだろうけども。
そしてタイミングよく呼び出し音が鳴って、リコちゃんから私にメッセージが届いた。
あ、先にやってほしいイベントがあると。後回しにしたいけど……ダメか。
いやしかし他ならぬリコちゃんの呼び出しならば、応えるのもやぶさかではない。
ピンチというならなおさらである。
私はメッセージの指示に従い、シティコミューンの端にあるビルに突撃した。
だがビルの入り口からして着ぐるみが行く手を阻んでくる。
だがそんなもの、物の数ではない。
幸い流れで沢山回復アイテムも仕入れた。
やはり物量こそがパワー。ゾンビアタックこそ最強である。
さぁNPC達よ、回復できずに倒れるがよい。
ただ、なるべく消耗は避けたいので、そこは早くやられていただきたい。
スラッシュ乱舞。
相手は死ぬ。
「ひやぁあ! ヤラレタズラ!」
敵構成員で戦闘が可能だったのは三人。
奴らが操っていたのはバグだった。
バグを自在に操れるというのは中々面白い。
バグといういかにもデータっぽい呼び名に反して、出てくるのが古めかしいロボット風なのが個人的にはポイントが高かった。
「こ、こんなところまで追いつめられるなんて……」
だが今回のアジトは大した規模ではない。
襲撃したアジトの最奥に待ち受けていた着ぐるみに襲い掛かるとボス戦である。
猿の様に手の長い単眼のロボットだったが、こっちはそんなに趣味でもなかった。
「……よし」
スクショは用意していたというのに残念だ。
クレソンは剣を構えてコマンド選択すると思考停止で殴り倒した。
猿バグは爆発し、地面に崩れて消えてゆくとクエスト終了の予感がした。
「くっ! ちくしょう! 覚えてろズラ!」
絵に描いたような捨て台詞だが、捨て台詞にはならない。
突然どこからか飛び出してきたリコリスが、あっという間に犯人たちを捕まえて縛り上げてしまったからだ。
そしてなぜか後ろから絶妙なタイミングで女の子が走って来た。
え? リコちゃんひょっとして、様子見てた?
そうじゃないと余りにもジャストなタイミングは……。
「あ! 君も来てくれたんだね! 盗られたAペットは何とか取り返せたよ! 妙に敵が少ないと思ったら君が頑張ってくれてたんだね!」
リコちゃん戦ってくれてたんだね! こちらも頑張ったかいがあった。
盗られたものも戻った上、その笑顔でプライスレスだ。
だが相手にならないとは言っても、やはりイベント戦闘は経験値がおいしい。
戦いの末、手に入れたのはクイックエッジ。
相手より先行して放てるが威力が弱い先制攻撃系のスキルだった。
「これはしばらくは使い道がなさそうだな……」
あとは、ああダメだ死ぬってタイミングで、ひっかき傷をつけるのには使えるかもしれない。