11・ハウジングを楽しもう
がじがじ。
とゴムを噛む。
ゴムの入れ物の先をチョンとちぎって中のアイスを食べていると言うのが正確なところか。
アイスが食べたくなった。だから食べる。
このさっぱりとしつつも滑らかなアイスはどこか懐かしさを感じるものだ。
しかしこの爆弾アイス、その名に恥じない時限式のトラップがあることも、よく知られることなのである。
でも食べたいから食べちゃおう。なにしっかり食べきれば問題ない。
しかしまさか自爆ボタンが搭載されているとは、Aペット恐るべしだった。
戦闘不能になるのと引き換えに、周囲に大ダメージを与える奥の手といったところか。
敵味方まとめて一掃とは恐ろしい兵器だ。
「なんか……自分の知らない間に自爆装置とかつけられてるのビックリするよね」
悪の軍団ぽいなと私は妙なことを考えていたが、ひとまずこの戦闘は自爆しても勝利ということになるようだった。
「ひぃ! 覚えてろズラ!」
謎の着ぐるみたちは逃げ出し、安堵の表情を浮かべたリコはめっちゃ可愛かった。
「ふぅ。ありがとう! 君のおかげで追い払えたよ! ああ怖かった!」
ええんやで。私は満足して腕を組み、机の前で頷いた。
困った美少女がいたら助ける、ゲームの基本である。
リコはぷんすかと怒りながらあの謎の集団の事を話してくれた。
「アイツらはノイ・ズーラって名乗ってる変な奴らで、他人のAペットを奪ったり壊したりしてる質の悪い連中なんだ」
いわゆる悪の組織というやつか。
変な名前のこいつらをぶっ飛ばせば、シナリオが進行するんだろうな。
「ホント君のおかげで助かったよ」
そう言うリコのリコリスを自爆で吹っ飛ばしたの私ですけどね。
まぁ勝ったからいいのか、ごめんねリコちゃん。
だがリコちゃんの戦いはまだ終わっていないらしい。まだまだやる気を見せるリコは、あいつらが逃げて言った方向を見て、拳を握り締めていた。
「あいつら、このコミューンでAペットを奪って回っているみたい。さっきのやつら追いかけたら、取り返せるかな?」
「やめといたほうがいいんじゃないかな?」
「うん! 私ならできるはず!」
「……」
そう思った私だったが、残念ながらイベントは自動進行である。
走っていったリコちゃんの後姿に、私は苦いものを感じながらその場を去った。
気がかりではあるけれども、自爆させてしまったスピニッチに申し訳ないので、まずは最初に回復である。
Aペットの回復は、アイテムの他に自分の工房でも行われる。
工房ではAペットの細かいカスタマイズもできるので、とてもお世話になる施設である。
呼び出すAペット達はいつもはここで待機していて、私の呼びかけに応えて出てきてくれているらしい。
しかしシティコミューンの都会的な街並みを歩いていると思うわけだ。
ちょっと殺風景すぎるな我が工房と。
せっかくだから、なんかもうちょっと飾り気があった方がいい。
私は思ったより自爆で動揺していた。気分転換に、こういうのもアリである。
ファームコミュで鉢植えを買ったが、それだけポツンとあるのがことさら寂しさを際立たせている気がした。
工房のハウジング機能は、まぁありがちなおまけ機能で、自分のホームを自分の好きなように改造できる。
まぁここでくつろいだりするわけではないから意味はないのだが、よく見るスペースを自分色に染められるのは中々に楽しいものだろう。
オマケと言っても色々試せるもので、壁紙や床板、家具に家電、Aペット保存ケースや、PCの壁紙まで、いじれる居場所は多岐にわたる。
やはりこのゲームを作ったスタッフのキャラクリエイトに対する愛は相当なものだと思う。
シティコミューンにはハウジングのアイテムも沢山あるから、この際序盤でかっこよく部屋をコーディネートして、長いこと楽しくゲームをプレイしたい。
「よし……やるか」
だが私は……この手のコーディネートは凝る方だった。
現在使用可能なオブジェクトを吟味。
時にはファームコミューンまで戻って、アイテムをそろえた。
集中していると、それ以外の事がおろそかになる。
そしてそれは―――ついでに食べていたおやつについても、例外ではなかった。
「よしよし、中々形になって来たんじゃないか? やってみると難しいもんなんだよなぁ、こういうの……」
手のひらに伝わる感触がちょっとずつ柔らかいものに変わっていく感覚に気が付いた時、爆発まで秒読みだった。
「……!しまっ!」
爆発はゲーム内だけの事じゃない。
「……」
ぶちまけた中身を洗い落とすために、私は風呂に直行した。