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0・『アニマペット』を遊ぼう

「おっと……動いた動いた。これでいいのかな?」


 さてゲームをしよう。


 そう思い立った私はとあるゲームを買った。


『アニマペット』


 そんな名前のゲームは古き良きターン制RPGである……らしい。


 バトルがターン制だと言うのが気に入ったポイントである。


 私はアクションが苦手なのだ。


 奮闘し、周辺機器のセットを何とか整え―――ダウンロードも完全に終了。


 おおッとその前に、私は冷蔵庫からシュワシュワ炭酸弾けるコーラを氷たっぷりの愛用タンブラーに並々注ぎ、とっておきのうすしおポテチをべりっと開けると、ふんわりと芋と脂が香る快適空間が出来上がった。


 手に油が付かないように割りばしもセット、愛用の椅子に座って尻を定位置に持ってゆく。


「さてどんなもんかな……」


 これで本当に準備は整った。


 さっそくゲームを始めよう……と思ったんだけどうまく動かず、コードを一本差し間違えていることに気が付くまで私の奮闘はもうしばし続いた。




『ようこそ、アニマペットの世界へ』


「へい! オシャオラ!」


 ついつい喜びの声が飛び出したのはご愛敬だ。


 では改めてゲームをスタートしていこう。


 アナウンスが聞こえ、チュートリアルが始まるだけで感激してしまった。


『この世界では、Aペットと呼ばれる人型データが存在します。そしてAペットを製作、育成する職人はAペットクリエイターと呼ばれ活躍しています。貴方は新米Aペットクリエイターとして、工房を与えられます。是非最高のAペットを制作してトップクリエイターを目指しましょう』


 簡単な世界観の説明の後、私の目の前の画面にはクルクルと回る人型のキャラが浮かんでいた。


 これがAペットなのだろう。


 要するにキャラクリエイトした人形でバトルを楽しむゲーム、それがこの『アニマペット』なのだ。ホームページにそう書いてあった。


 私はアンドロイドのように見える素体をほほうと唸って眺めた。


 女性型のテンプレートはイラストもあったし、とても美しい。


 全体的に白い印象のレオタード美人である。


 種類は最初から複数あるようで、すぐに始めたい場合はここから好きなものを選んでゲームを始めればよいわけか。


 テンプレートの種類はイ型 ロ型 ハ型 ニ型 ホ型 ヘ型 ト型の7種類。


 男女三種類ずつ 小型 中型 大型で分けられ、最期の一つは3頭身のマスコット型だ。


 パッケージに描かれているのは最初に表示されたテンプレートで、いじらずに始めれば美麗なモデリングを堪能できそうだった。


 だが今回はせっかくなのでキャラクリエイトをしてみよう。


 何を隠そう私は、キャラクリにはそれなりに時間をかけてしまう派なのだ。


 バリバリポテチを齧りながら、ディスプレイとにらめっこの時間である。


 ふむふむ。体のパーツには様々なパラメーターが設定されていて、どんな体型、顔の造形でもある程度自由に設定できそうだ。


 バーを右にやったり左にやったりして遊んでみると、ずいぶん面白おかしく、そして幅広く変化できるようだった。


 自分の顔に大雑把に寄せることもできる面白い機能もあるようだが……。


「……いや、この機能いる? うん……自分の顔はやめておこう。どうせ動かすなら美女がいい」


 だいたいこういうゲームは髪型も服装も女性服の方がバリエーション豊かで選択肢が多いと相場が決まっているのだ。


 では製作開始である。


 やはり、真剣に作りこむと楽しいもので、時間が面白いように溶けてゆく。


 ペットボトルの容量も同じくぐんぐん減っていくのは、塩味ありきのマジックだと思う。


 そして画面をガッツリ見つめていた私はふと我に返った。


 はっ……まだゲームが始まってもいないのに1時間。おおっと、こいつはなかなか時間泥棒だ。


 しかし苦労のかいあって、中々の美女Aペットが誕生した。


 顔は戦うのだから凛々しくも中性的で、可愛いというよりもカッコイイ系。


 背を高くし、プロポーションも出来る限り理想に近づけたとも。ここ大事。


 黒い髪に、青い瞳。


 まつ毛は長く、薄紅色のルージュがセクシーだ。


 全体的に非現実的な体型であるかもしれない。しかしフィクションでなぜにリアルによせねばならぬのか?


 男も女もそこは仮想空間でくらい夢見てなんぼ。


 私は現実を理想のバッドで殴りつける所存である。


 誇張には人類の夢とロマンがたっぷり詰まっていると私は信じていた。


「うーむ……」


 しかしじっと見ていて……私はこのゲームの真髄を見た気がした。


「……これは。己のフェチズムを浮き彫りにするなぁ」


 いやいや、ワードチョイスが露骨に過ぎたね。浮き彫りにするのは己の芸術性だとも。


 純粋に美しく作ろうと思ったらこうなった。ただ一つの真実である。


 もっとネタに走った方がよかっただろうか? リア友に見せられる? テレない?……いや。


 私は余計な雑念を振り払い、ようやく決定ボタンを押すとゲームはスタートした。


『なるほど……これが君のAペットか。素晴らしい。君の作品がこの世界に一つ生まれたことを祝福しよう―――そして君も』


 声は作品の完成と共に私を新たな世界へ招き入れた。


『ようこそアニマペットの世界へ。あなたの究極の成長を期待します』


 ちょうどポテチの袋も空になった。


 パリパリと軽い食感ながらも、胃にどっしりとくる芋の重さを感じる。


 そして口の中に残る、塩の余韻を残った炭酸の濁流で洗い流した。


 思わずぺろりと舌が出る。


 謎のオペレーターにいざなわれ、私の視界はデジタルな空間を抜けて真っ白にホワイトアウトした。


 ああでも、この時点でセーブされているようだから、ここでやめてもいいな疲れちゃったし。


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