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「いや、でもホンマにカヨくん無事で良かったなあ。ユズちゃん」
笑って話しかけてくるオーミを、ユズはかわした。
「……ユ、ユズちゃん?」
「ふんっ。皆カヨくんのこと、助けに行こうとしなかったじゃない」
「う、うぐ。確かにせやけど……」
「ライバルが減る方が良いって思ったんでしょ。サイテー」
ユズに本気で責められ、流石のオーミも笑顔を作れないほどダメージを受けてしまったようだ。仕方が無いのでフォローしてやることにする。
「まあ、あれは仕方なかったと思う。そもそも俺の足に追いついて止められそうな奴じゃないと無理だろうし。小柄なオーミには尚更無理だろ」
「うぐ……小柄かあ……」
どうやら気にしていたらしい。でもフォローしてやったんだ。許せ。
「……ううん。あたしも怒りすぎちゃった。ごめんね」
ユズがぺこりと頭を下げる。良かった。これで解決したな。
「あの、良いですか」
ユズとオーミの間を割るようにして、イガラシがこちらに来る。
「何だよ、イガラシ」
「いえ。どうやって死んだか……カヨさんにはその記憶はあるんですね」
そういえばそうだ。自分の名前すらも覚えていないというのに、死因だけは嫌にはっきり覚えている。
「イガラシは死んだ時の記憶は無いのか?」
「……覚えていませんね。残念ながら」
そうか。全員が全員、死んだ時の記憶がある訳じゃないんだな。
……あれ?でも確か、ユズと初めて出会った時、「あたしも死んだ」って言っていたような。ということは、ユズは死んだ時の記憶がある……?
「おーい、皆早く集まれしー!」
……考え事をしようとした瞬間、レインから声がかかった。仕方が無い。集まろう。
「何だよ。何か用か?」
「んーと、いお兄が全員の名前把握してないからもっかい名乗ってくれって言ってたしー」
「いお兄?」
「おーう。オレっちのことだぜィ」
煙草を吹かしながらいお兄ことイオリが手を挙げる。もうニックネームをつけるほど仲良くなったのか。ギャルのコミュ力が恐ろしい。
”命は大切にするべきさァ、カヨちゃん”
……あれ。
でもさっき、コイツ俺の名前……。
「よし!では集まったところでもう一度名乗っていこうじゃないか!」
ガラスがパンと手を叩く。
「うう……自己紹介苦手なのに……最初からちゃんと聞いとけっての……」
「俺はバケツだ」
「いや順応性早いなお前……!てかほんとにその名前で良いのかよ……!」
「……?何か問題があるのか」
「いやバケツって……!どう考えたって人に付ける名前じゃないだろ……つーかあの関西人に無理矢理名付けられてたじゃん……!」
「覚えやすいだろう。だから特に問題は無いし、俺も不満に思ってはいない」
「そうそう!私だってガラスだからね!ガラスのハートだから!」
「絶対嘘だ……それ絶対嘘だ……!いやほんと無理……アタシ一人でこの大ボケ共のツッコミは無理だから……!」
騒がしいトリオ(実際煩いのは緑だけだが)を尻目にとりあえず再度自己紹介をしていくことにする。
「おいコラ助けろ……お前どう考えてもこっち側 (ツッコミ) だろうが……」
その騒がしいのに睨みつけられるが、俺は視線を逸らしておいた。