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……私の名前は、直樹硝子。
名前の漢字のせいか、ニックネームは "ガラスちゃん" だった。
響きが好きで、個人的には気に入っていた。
私の親は直樹グループの社長で、物心ついた頃から私は社長令嬢としてそれはそれは厳しい教育を受けてきた。
そして、私の周りにはいつも人が居た。所謂、私はクラスの人気者だったのだと思う。
だけど私の周りにいるのはどうにかしてうちの親に取り入ろうとする親に差し向けられた子供達ばかり。
彼らは《直樹グループの社長令嬢》と仲良くしたいだけで、《直樹硝子》個人と仲良くなりたい訳では無かったのだ。
そんなことくらい、私でも分かっていた。
だから私は誰も寄って来ないよう、変人を演じ続けた。とりあえず、私の知っている変人の口調を真似することから始めてみたが、そんなことでは皆離れていかなかった。……社長令嬢に媚を売っておかないといけないからだ。本心ではこんな私に好き好んで近寄りたいなんて思う者が存在している訳が無い。
「しょーこ!クレープ食べ行こーぜ☆」
……いや、たった一人だけそんな物好きが存在していた。
「……澪音」
「ほらほらー!しょーこに群がる者共よ散りやがれー!しょーこは今からうちとクレープ食べ行くんよー!」
私の幼馴染みの鮫島澪音。この子とは親同士が幼馴染みで、それこそ生まれた時からの付き合いだった。
なので、澪音は私のお金目当てとか、そういう感情で近寄ってきていない唯一の人間だったのだ。
「……私なんかと出かけてもつまらないだろう」
しかし、度重なる媚売りで私の心は荒んでいた。純粋な気持ちで私と付き合ってくれている澪音に対してまで私は冷たい言葉を吐く。
だけど彼女は私から離れたりはしなかった。
「えー?何で?しょーこと遊び行くのめっちゃ楽しいしー!」
彼女が本気で言っているのは分かる。
だが鮫島澪音という女は私なんかとは違って本当にクラスの人気者だったのだ。そんなクラスの人気者が偽りの人気者である私に声をかけてくれるなんて……と私はひねくれていたのだ。
「……仕方ない。それほどまでに美味しいクレープだと言うのなら、ついていってもいい」
「マジマジ!本気でちょーぜつめちゃうまクレープだから!」
「語彙力が無いな君は」
「語彙力無くても生きてけるしー!」
……まるで陰と陽。でも私達は親友だった。
間違いなく、親友 "だった" のだ。




