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「……あ、見つけた」
「「!?!?」」
こんなところ、誰も気づいてくれないだろうし誰も助けには来てくれないだろうと思っていた。
なのに穴の外から聞こえてきた声に、アタシ達は二人顔を見合わせてから上を向く。そこには……
「バケツ男……!?」
「バケツくん!?何でこの場所分かったん!?」
「いや、顔に怪我させたのが心配でな。一応ずっと様子を見ていたんだが天使の部屋に行くのが見えて、そこから出てこなかったから。とりあえず近辺探し回ったらこの穴を見つけたんだよ」
ああ、そういやコイツはこの計画を知ってたのか。というか、顔怪我させたの気にしすぎだろ。あんなのどうってことないっての……。生前、虐められていたことに比べたら……。
……ああ、そうだ。思い出した。
アタシの名前は十六夜妃愛子。私立富士見学園に通う高校三年生。
だけど、自分のクラスには殆ど行かず、保健室登校だった。
原因は一年生の頃からの虐め。引き金となったのは今となっては覚えていない。ただ名前の割に顔が可愛くないとか、そんな訳の分からない理由で弄られて、それがどんどんエスカレートしていったとか……そんな感じだったと思う。
「何がヒメコだよ、クソッ……!変な名前付けやがって……!」
この頃には、アタシは周りを全て敵だと認識していた。両親は忙しく海外を飛び回っていて、滅多に帰って来なかった。
アタシのことなんか、誰も助けてくれなかった。助けるどころか心配してもくれなかったのに。
「……大丈夫か?」
アタシと関西人をロープで引き上げてくれたコイツは、ずっとアタシのこと心配してくれてて……。
「……うっせ。顔のこと、気にし過ぎなんだよ……」
「絆創膏、使わなかったのか」
「あんなの顔に貼ったら余計ブスになるだろ」
「気にするな、そんなに変わらないさ」
「それもそれでどうなんだよ!」
怒鳴ったら、急に涙が出てきた。もう助からないって思ってたから。
「いやあ、バケツくん。ホンマにおおきに」
「う、ううっ……ありがとぉ……」
「別に良い。見つけられて良かった」
「あっ!オレンジ!」
「「!?!?」」
突然聞こえた声に振り返ると、そこには天使が居た。
「オレンジ?何のことだ」
「……!ば、ばか!聞かなくていい……!というか、別に、違うし……!」
”オレンジ” の意味を何となく察し、慌てて止める。更に首を傾げるバケツ男を見て、天使はクスクスと笑った。
「ふふっ♪こっちの話ですから気にしないでください。良かったですねえ、助かって」
「……!!」
天使がこちらに歩み寄ってくるので思わず後退りをする。もう落とされるのは嫌だ。
「もう落としませんよ?まあ、またあたしに嘘をついたらどうなるかわかりませんけどね?」
「も、もうつくわけないやろ!なあ!?」
当たり前だ。あそこまでされて、もう二度とコイツに歯向かおうなんて思わない。
「今回は面白いものが見られたので許してあげます。それより……」
「大変なことになってますので、皆さんすぐにダイニングルームに戻ってくださいね♪」
そう言って天使はにっこりと笑った……。
第四話に続く……




