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PINPON・KING 異世界卓球大戦  作者: 聖なるナイフ
0.それはイかれたゲームの始まり(チュートリアルはskip可)
1/2

チュートリアル 名も無き傍観者

「ようこそ。ピンポンキングの物語へ」

眠気のような倦怠感の中、誰かの声で目覚めた。

「ここは現実には程遠い、空想の世界。私はこの図書館の司書にございます」

声を出そうとするが頭が回らず、声すら出ない。喉はおろか、身体のすべての感覚が無くなっている。だが、目はなくとも景色は見え、耳がなくとも落ち着いた雰囲気の女性の声は聞こえた。

「この物語は武力のすべてが卓球となってしまった世界。この本はそんな世界でルールを逆手に取り、世界を支配する魔王を打ち破ろうとする者たちの物語でございます」

反射的に返事をしようとするが声が出ない…。

「結構です。あなたの役目はこの物語を傍観するだけ…。そう難しいことではないと思います」

この世界のことや訳の分からない物語。今思えばなぜ自分がここにいるかということも分からない。

ただこの秘書の言う通りに物語を傍観するだけでいいのならそれでいいのかもしれない。目の前には図書館のように本棚が並んでいて、ひとつ椅子が置いてあった。そこに、黒い服の女性がやってきて目の前に座った。彼女はラケットを持っているのはわかったが、彼女の顔は見えなかった。だが少なくとも彼女が声の主で間違いないだろう。

「卓球はご存じですか?あなたの世界ではそこそこ人気のあるスポーツと伺っておりますが」

卓球。ラケットで卓上のボールを打ち合うスポーツ。相応な知識はあるようだが自分のことは一切思い出せなかった。

「この物語では異世界卓球という、卓球を基盤に作られた超ド派手なスポーツでガチンコバトルをするのでございます。異世界卓球は基本的なルールこそは卓球ですが、それ以外は何をしても良いのです。例えば、魔法で敵を妨害したり、剣や槍をラケットの代わりにしたり…と様々ですので一度見ていただいた方が理解しやすいかと思います」

司書はラケットを椅子の隣に積まれた本の上にラケットを置き、どこかから取り出した分厚い本を開いた。訳の分からない話だが何もない自分は目の前のことを信じて傍観するしかないのだろう。

「それでは手始めに少し先の物語をご覧下さい」

本が開いたまま宙に浮き、高速でページが捲れていく。それを見つめると段々と意識が朦朧としていった。





「さぁ!やってまいりました!異世界卓球魔王杯 魔王争奪戦!青空広がる快晴、スタジアムは歓喜に包まれております。第一回戦は日本代表ピンポンキングダムvs魔王軍選抜チームⅠ!この大会はシングルス三回とダブルス二回の団体戦になります」

歓声が上がるスタジアムの中、灰色のローブを着た選手が入場する。

「おおっと!日本代表!入場した選手だけでなく観戦席の代表選手も、姿が見えないようにローブを着ています!体格などである程度は予測可能かもしれませんが、これは何かの作戦か?」

ローブの選手が入場を終えると、プロレスやボクシングを思わせるようなリングが空から落ちてきた。その上には卓球台がひとつ。

「さて、第一回戦のステージはノックアウトリング!このステージは四角いフィールドの周りに伸縮自在の赤いロープが特徴的なステージです!それだけでなくこのステージでは相手をリングアウト、もしくはノックアウト状態にすると5カウントが始まります。その間に復帰できなければ敗北と言うことになりますのでご注意ください!なお、第一回戦はすべての試合がこのステージ固定となっております!」

審判の説明が終わると真っ先にローブの選手がリングインした。

「そっちのオーダーは?」

少年のような声は挑発しているようだった。さらに宣戦布告するようにラケットを敵チームの入場口の方に向ける。

「そう死に急ぐな少年…」

魔王軍チーム観戦席から紫色の鎧に身を包んだ大将と思わしき骸骨が立ち上がる。

「えっと僕…」

ローブを脱ぎ捨てて正体を現す。その正体は黒髪の少女だった。

「女か…」

「女?見かけで判断しない方がいいと思うけど?」

その姿を見た観客たちは驚きの大歓声を上げた。

「なななななな!なーんとぉ!日本代表、第一試合から大将の登場だぁ!」

実況も盛り上がりを見せるが骸骨の大将は冷静だった。

「これはこれは…日本代表は切り札を最初に出してくるほど自信がないと見た」

「そう?むしろ、余裕ってとこかな。なんなら、三ポイント以内でノックアウトさせてあげるよ」

これにはさすがの大将も気が立ったようで、大声で選手を呼び出す。

「ええい!ならばパワー勝負だ、ガネーシュラ!女が相手だろうと叩き潰せ」

地ならしのような音が響き、入場口のドアが蹴り破られた。

「ぱうぉぉぉん!お任せください!」

金管楽器の轟音のような叫びをあげたのは鎧のような筋肉が特徴の六つの腕と象の頭。まさに異形のような混沌とした異種族だった。ガネーシュラはその巨体に合わないほどの跳躍力でリングに飛び込んだ。

「さて魔王軍選抜は七刀流の怪力剣士ガネーシュラだ!体格差やパワー差は一目瞭然!」

ガネーシュラは七本の鞘から刀剣を引き抜き六つの腕と一本の鼻で構えた。

「ハッハッハ!日本の小娘が大将だと?笑わせてくれるわ」

ガネーシュラは白いボールを日本の大将に向けて飛ばした。皮肉にもサーブを譲っているようだ。

「あんまり日本の女の子舐めない方が良いよ」

少女はボールを受け取ると前傾姿勢で構えを取った。それと同時に六つ腕の怪人は剣を構える。

「日本式のサーブ、見せてあげるよ」

垂直に高く上げ、落ちてきた球をすくい転がすようにラケットを振る。回転を帯びた打球はネットを超えるとガネーシュラの元へと跳ねる。

「この七刀流に死角はなーい!」

両腕をクロスさせ、六つの剣でボールを打ちあげて回転を殺すと七つ目の剣で叩きつけた。スマッシュ打球は少女の逆を突いたが、少女は左手でもう一つのラケットを鞘から引き抜いた。

「僕もそういうの得意だよ」

少女は上手く重心を移動させ、ラケットを振り上げた。

「おおっとここで二刀流!多刀流同士の戦いだぁ!」

左手のフォアドライブがコートを大きく弾み、体の中心を狙う。

「だから死角はないと言っているだろう!」

像の鼻がムチの如くうねり、大きく跳ね上がった打球を薙ぎ払う。

「二刀流vs七刀流!第一試合の一ポイント目から激しいラリーが続いています!」

「いや、終わらせる。いい感じに盛り上がってるし、そろそろ決めるよ!」

「させるか小娘!」

右の三本が振り下ろされ、バック側直線に打球が高速で飛ぶ。それに対して少女は左手のラケットを鞘にしまうと、顔の横にラケットを構えた。

「ここで!日本代表、ラケットを構えたまま静止している!これは必殺技の予兆か?」

「一閃ッ!」

刹那の瞬間だった。目に見えぬラケットの斬撃によって、速球は新たな回転を帯びた。

「バックカットだ!日本代表の大将は攻撃だけでなく防御の技まで極めていた!」

「その程度の回転…!」

七本すべての剣で回転玉を仕留めようとしたその時だった。肩透かしたようにボールが大きく跳ね跳び、腑抜けたロビングとなった。

「う、上回転で跳ね上がった!?」

ガネーシュラが空を見上げたその時、快晴の空に暗雲が迫っていた。やがてその暗雲から一筋の雷が落ちる。そこにはラケットを掲げる黒髪の少女の姿もあった。雷はラケットの頂点に落ちると吸い込まれるように纏わりついた。

「バスターブレイク!」

雷を纏ったラケットがもう一度飛び上がった打球を仕留め、稲妻のような剛速球を放った。

「な…なにッ…」

咄嗟に七つの剣で受け止めるが稲妻の打球を前にした剣たちはただのガラス棒に等しかった。そして、剣のすべてを失った多腕の剣士はそのまま大きく吹っ飛ぶとリングの外に転がった。黒焦げて震えているその姿はまさに霹靂から落とされた光に撃たれた姿そのものだった。

「必殺技が決まったぁぁ!魔王選抜のガネーシュラ選手、カウントをするまでもなくKO!迅雷が如く、最速のゲームセット!第一試合を制したのは日本代表だぁぁぁぁぁ!」



ぱたりと本が閉じた音で目を覚ました。

「いかがでしたか?これが異世界卓球バトルでございます」

常識的なものとは程遠い、そんな感じであったが向こうの世界ではあれが常識なのだろう。甘んじて受け入れる。それが目の前の彼女が望むことだ。だからせいぜい楽しむことにしようと諦めた。

「この物語の主人公は先ほどのページに登場した少女になります。始まりはふとした出会いから。そこから幾つもの魂が一つのゲームによって人と人、国と国、やがては世界をも巻き込む混沌となるのです。それでは彼女の理不尽な世界を覆す挑戦をじっくりとご覧ください」


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