第五十七幕 闇の道
いくつかの階段を降りて闇が支配する地下通路を私達は進んでいく。
地下通路が教区内には数多く存在していると噂で聞いたことはあったが、あの襲撃の日以前はそんなことと全く関係なく過ごしていた。
正直本当に存在しているとは思っていなかった。
硬い床面と閉鎖された空間のため足音が響く。
「ご主人様……この先をクレアお嬢様に見せても……?」
後ろからアンナの声が響く。
「背に腹はかえられないだろう……」
ヴァロワレアンは歩く速度はそのままに、どこか楽しげに呼びかけに応じる。
歩いていると、少し先に光が差し込んでいるのが見えた。
左右の壁が開けて広間に到着する。
天井から差し込む光は照明と空気穴を兼ねているようだった。
そこで私が見たのは、皆みすぼらしい服を着て鎖で手足を壁に繋がれている様々な特徴を持った人々の姿だった。
皆一様に怯えた眼差しでこちらを見ている。
「彼らが僕の"商材"さ……ここならそうそう見つからないだろう?」
その時、私達が来た通路の奥から地響きのような音と、少し遅れて風が吹き込んできた風が私の肌を撫で、髪と破ったドレスを揺らした。
『……どうやらあの分厚い壁を特殊な爆薬で破壊したようですね……奴が来ますよ!』
私の頭の中でレインフォルトが警告の言葉を発する。
「あいつが……来る!」
私は短くヴァロワレアン達にレインフォルトの意を伝えた。
マリーが御者を迎え撃つべく振り返り"処刑人の剣"を構える。
「僕達は行くよ……マリーはなかなかの剛剣の使い手だからね……邪魔になってはいけない……」
私達はさらに昏い地下通路の奥へと歩を進めていく。
歩き続けていると、異臭が鼻をついた。
厭な臭いだ……
何かが腐ったような、すえた匂い……
「この先には僕の"工房"の一つがあってね……」
ヴァロワレアンの囁くような声が地下の狭い通路に反響した。




