第五十三幕 食堂
目を覚ました私が最初に見たのは、見知らぬ天井だった。
私は飛び起きる。
「……ッッ!!」
私は鈍い痛みに言葉を詰まらせる。
私が着ているのはゆったりとした白い服……その下には包帯が至る所に巻かれている。
しっかりとした処置が施されているようだった。
身体に動かないところがないか確認しつつ周囲を見回す。
見知らない部屋だ。
一見して高価だとわかる豪奢な調度品の数々、私が寝ているベッドも一級品のものだ。
「ここは……どこなの?」
『ここはあなたがヴァロワレアン卿と呼んでいた方の別邸のようです……』
口にした問いの答えは私の頭の中から返ってきた。
『貴女は丸2日間ほど寝ていましたよ……まぁ、かなり無理をなさったようですから……仕方ないとしましょう』
頭の中で響くレインフォルト=アーデルハイムを名乗る男の声に私はため息をついた。
その後、私はヴァロワレアンの侍女のアンナとマリーの介護により、2日ほどでほぼ全快していた。
その間、ヴァロワレアンは別邸には帰っていないらしく、その姿を見ることは無かった。
そんなある日、私はアンナとマリーに鮮やかな紅いバラをモチーフにしたドレスを着せられていた。
コルセットはつけていないが、自然な体のラインをより美しく見せる工夫がなされているようだった。
ヒラヒラして動き難いのは変わらないが、息苦しさがなくなり、これならば悪くないと思える。
画期的な服だ。
そして、私は2人の侍女に連れられて食堂についた。
時刻は黄昏に差し掛かる頃で、食堂の中はいくつも並ぶ燭台に燈された淡い光で満たされていた。
長いテーブルの端の椅子を使用人が引き、促されたため、私はそこに腰掛ける。
目の前には前菜と思しき料理と空のグラス……
少しして、ドアが開いてついにこの館の主がその姿を現した。
彼は私の真正面に座る。
相変わらずの女性と見紛わんほどの美貌……
「やはり貴女には紅がよく似合うね……クレア=ブランフォード殿……」
高く涼やかな声でアルフレッド=レミアル=ヴァロワレアンは私に語りかけて微笑んだ。




