第五十一幕 焦燥
『……なんだと……!?……アーネスト、お前が付いていながらどうなっているっッ!?』
映り込む眼鏡をかけた神経質そうな男が激昂する。
「落ち着いてくれランドルフ兄さん!」
『これが落ち着いていられるかっ!!』
クレアの兄二人の声が術具の水晶玉越しに飛び交う。
「こっちも手を尽くしてクレアを探してるよ、きっと見つかるさ」
アーネストの言葉にランドルフは頭を抱える。
『…………なぜこんな事になった……?』
ランドルフの問いにアーネストは一つ息を吐き。
「僕と違って信頼できる几帳面な密偵をクレアには付けてたんだけど、定期連絡の時間に彼が現れなくてね……急ぎ捜索させたら、聖都郊外で死体となって見つかったよ……かなりの腕利きだったんだがね……」
ランドルフは俯いたまま黙している。
「密偵の捜索の合間にエリスに連絡を取ったらクレアは深夜から早朝にかけて突然入った聖務で呼び出され出て行ったとのことだった……」
『……そこでクレアの消息が途絶えた……と?』
ランドルフがため息混じりに言葉を吐き出した。
「そういうことだね……他の聖騎士団所属の問題児達も姿を消してて、聖都はちょっとした騒ぎになってる……この強引な感じは、恐らくウイルへルム枢機卿あたりが関わってそうだね」
頷いて続けるアーネストの言葉にランドルフは怪訝な顔をする。
『ウィルヘルム……あの人の良さそうな男か?』
ランドルフの言葉にアーネストは肩を竦め
「ずっと前に話したはずだけど、ウィルヘルムは聖都じゃ有名な教皇派の急先鋒だよ……教会からの貴族勢力の排除を画策してるともっぱらの噂さ……」
アーネストの言葉にランドルフは纏う苦悩の色を濃くする。
「さらに、異端者の技術を用いる尖兵を飼ってて手段を選ばないらしい……なんて黒い噂まであるからね……とにかく今はクレアの捜索を急がせてる……時間がないから今回はここで切るよ」
アーネストは通信を切り上げて一つため息を吐き、次の手を打つべく立ち上がった




