第四十一幕 邂逅
私は呟きフードを取り首筋を見ると、そこには見覚えのある痣があった。
顔と痣を交互に見返し
「……もしかして、アルバート……兄様……?」
私はブランフォード家現当主であるべき筈の長兄の名を口にした。
私は記憶を手繰り寄せる。
歳の差があったため、それほど関わった記憶はないが、優しい兄だったことは覚えている。
そして、今思えば病弱で繊細な心を持つ人だったように思う。
私が6歳程の幼い頃、首筋に浮かぶ痣が現れて少し経った頃に私の前からアルバートは姿を消してしまった……
家族の中ではこの話題はタブーとなっており、この頃はまだ生きていた父母もランドルフもアーネストも長兄のアルバートのことについては口を噤んだ。
しかし、人の口には戸を立てられないとはよく言ったもので噂は耳に入っていた。
兄は愛した幼馴染の婚約者に首を絞められ、殺されかけたらしかった。
命は取り留めたものの兄は心を壊してしまい、心を癒すためどこかの教会に身を寄せている……という噂だけは耳に入っていた。
しかし、まさか聖都にいたとは……
「クッ……日の光に目が眩んだとはいえ……不覚を取りましたね……」
痛みに呻きながらも兄、アルバートが呟く。
「しかし……アルバート……ですか……この身体がよりによってあなたの兄上とは、皮肉が過ぎますね…………」
長兄の肉声を久しぶりに聞いた。
実に15年以上ぶりの再会だ。
「残念ですが……この身体の……彼の心はもう、死んで……います……」
苦しげに彼は言葉を続け咽せるとともに喀血する。
姿には記憶の中の兄の面影があるが、その話し方や仕草は別人のそれだと私は思い出す。
記憶の中の兄はもっと自信なさげに話す人だった。
「なら……あなたは……あなたは一体何物なの……?」
私の問いかけに男は口の片端を上げ
『こちらで失礼しますよ……声を出しづらくなってきましたのでね……私はレインフォルト=アーデルハイムと申します……』
頭の中に響いたその名はヴァロワレアン卿から告げられたこのトラードの街を廃墟にした張本人の名だった。




