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屍術医師 レインフォルト 上  作者: 御蛇村 喬
32/65

第三十二幕 急転

ちょーっとだけアレな回ですw

この作品はR15です!

 蓄えた髭を撫でつつ男は黒い瞳に鋭い光を宿して普段は誰も使わない薄暗い通路の壁に背を凭れて何かを考えているようだった。

 

 纏っているのは枢機卿の証たる赤と白を基調とした意匠のローブ。


 男は壁越しに3回振動を感じ、二回壁を叩き返す。


『遅れて申し訳ございません……ウィルヘルム様』


 壁越しに籠った男の声が壁と骨を伝って響いてくる。


「時間に遅れるとは、お前にしては珍しいな……」


 ウィルヘルムは背中越しに壁の向こうに言葉をかける。


『申し訳ございません……』


「まぁ良い、部下を許すことも時には必要だろう……それよりも例の件はどうなっている?」


 鷹揚に言ってウィルヘルムは壁越しに問いかける。


『聖騎士団内の素行の悪い者や危険性のある者達の名を記したリストを4番に……御回収ください』


「わかった……ご苦労、お前にはもう直ぐ大きな仕事を任せるつもりだ……お前は我々の最高傑作だ、頼りにしているぞ」


『御意のままに……では、失礼致します』


壁の向こう側の気配が消えると、ウィルヘルムは表情を温和なものに変え、通路の奥へと消えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「やぁ、カルロス……君がこんな時間に緊急回線を使ってくるなんて珍しいじゃないか……明日は雪が降るかな?」


 夜の帳が降りつつある寝室に涼やかな声音が響く。


『冗談を言っている場合ではないぞアルフレッド……いや、ヴァロワレアン卿か』


「僕は君にアルと呼んで欲しいと思っているよ」


 魔術での通信相手の聖騎士団長にヴァロワレアンはイタズラっぽく語りかける。


『やけに興奮しているな……まさか……』


「お察しの通りさ……少し"遊んで"ね、火照ったからアンナとマリーに鎮めてもらっていた所さ」


 ヴァロワレアンは上機嫌で笑いワインを手に取り喉に流し込む。


『自重しろと言っただろう!!……クッ……時間がない、連絡の続きをするぞ……教会の動きがどうもおかしい』


「ほう?」


 カルロスの言葉にヴァロワレアンは愉しげに目を細める。


『とある人物の護衛任務を人員指定で突然言い渡された』


「それは急な話だね」


 ヴァロワレアンは笑みを深める。


『人選は有力貴族出身者と問題児ばかり、警護対象や目的地さえ明かさないところといい……どうもキナくさい…… さらにどうやら命令の発信元があのウィルヘルムのようだ……皇帝陛下との謁見以降、教皇の態度もおかしいしな……』


「君はなかなか洞察力があるからね……その辺りは信頼しているよ」


 ヴァロワレアンは静かに舌舐めずりをする。


『これから団員に連絡を取り準備を始めて、明日の午前4時に隊舎前から出立させる予定だ』


「……連絡感謝するよ、やはり持つべきものは友だね」


『……俺とお前は一蓮托生だから致し方なく協力しているだけだ……勘違いはよしてもらおう』


「つれないね」


 冷たさを含んだカルロスの言葉にヴァロワレアンは苦笑して肩を竦めると、そこで通信が途絶える。


 緊急回線は機密性重視で持続時間が短い。


 力の充填にも時間がかかる。

 

「今夜は寝ている暇は無さそうだ……聞いていたね?アンナ、マリー?」


 ヴァロワレアンは同じベッドに寝ている一糸纏わぬ姿の二人に呼びかける。


 ヴァロワレアンもまた一糸纏わぬ艶やかな姿をさらしている。


「お召し物を用意致しますので、少々お待ち下さい」


 少し気怠げに言いつつ起き上がった二人の侍女は簡易的な服を着て部屋を後にする。


「面白いことになってきたじゃないか……ふふふ」


ヴァロワレアンは独り言ちて笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 展開がテンポよく心地良い。 [気になる点] 生きてんの?!ねぇ、どうなのよw [一言] んー、これは目が離せない。 この引っ張り方、にくいぐらい良い。 次も楽しみにしております。 今回は…
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