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屍術医師 レインフォルト 上  作者: 御蛇村 喬
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第二十八幕 密談

かなりきな臭くなってきました。

 帝国訪問から帰った教皇オルフェリアスは自室で激昂していた。


 しかし少しして教皇は大きく呼吸をして落ち着きを取り戻す。


「……情報がどこから漏れた……?」


 教皇はまだ怒りの残滓に歯噛みをしつつ呟く。


「トラードを閉鎖してまで隠したアーデルハイムの情報……誰が漏らした……もしやヴァロワレアンか……?」


 教皇は頭を振り


「いや、奴はアーデルハイムと接触することにこだわってはいるが、帝国への忠誠心などない……奴は自らの利害にしか興味のない人間のはずだ……」


 教皇が独白していると部屋に扉を叩く音が響く。


『ウィルヘルムです……仰せにより只今罷り越しました』


 扉の向こうからの声に教皇が許しの言葉を発すると世話役が扉を開けて訪問者を招き入れた後、施錠する。


 入って来たのは枢機卿のみが着ることを許された白と赤を基調としたローブを纏った1人の男だった。

 後ろに流した青みがかった黒髪に黒い瞳、そして褐色の肌、歳の頃は50代半ば程だろうか、柔和な表情と蓄えている髭が印象的だ。

 体格がいいためローブはあまり似合っていない。


「ウィルヘルムよ、よく来てくれた」


 教皇の言葉にウィルヘルムは礼に則って傅き


「私を緊急でお呼びになったということは、アーデルハイムの件でしょうか?」


 察しのいいウィルヘルムに教皇は満足げに頷き


「そうだ、どこから聞きつけたか、ヴィンセントがアーデルハイムの身柄を引き渡せと言ってきおった……その場ではシラをきったが、おそらく隠しおおせるのは難しいだろう……何かよい案がないか?」


「皇帝陛下が……あの方もまた油断なりませんからな……」


 ウィルヘルムはその優しげな瞳を細めて少し考え


「……まず、皇帝陛下がまた要求をしてくるようならば素直に白状して一旦要求を飲みましょう」


「ならん!、儂がアーデルハイムの診察と調薬無しで生きられぬことは知っておろう!」


 ウィルヘルムの提案に教皇は声を荒らげる。


「……そのままただ引き渡す、というわけではございません……」


 それに対してウィルヘルムは柔和だった表情を豹変させて冷たい声音と共に不穏な光を湛えた視線を教皇に向け


「アーデルハイムの身柄引き渡し予定地にあらかじめ伏兵を忍ばせ、彼等にアーデルハイムを奪還させるのですよ……」


 ウィルヘルムの態度の豹変と言葉に教皇は眉を顰める。


「……ご存知の通り幸いにも私にはそういった工作を得意としている部下達がおりますし、新しい技術の実験にも丁度良いでしょう……私めにお任せください」


 ウィルヘルムは口の片端を上げ


「この神聖なる聖都で最近の貴族連中の増長ぶりは目に余るものがあります……これに託けて間引くのも良ろしいでしょう」


 その不穏な言葉に教皇は小さく唸り天井を仰ぎ見て眉間の皺を深めた。

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