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屍術医師 レインフォルト 上  作者: 御蛇村 喬
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第二十三幕 帰路

 私は帰路を歩きながらエレナとの会話を思い出していた。


「テレサ=ワーテルスは10年ほと前に亡くなりました」


 エレナの言葉が部屋に重く響いた。


「そう……ですか……」


 私は思いもしなかった答えにそう言うしかなかった。


「テレサはここに来た当時、非常に不安定でした……」


 エレナは当時を思い出しながらゆっくりと話し始めた。


「普段はとても温厚で慎み深い女性でしたが……時折……大きな音や……暗闇に怯えて狂ったように取り乱すことがありました……」


 記憶をたぐり寄せながらエレナは言葉を紡ぐ。


「数年経ち、ここでの生活にも慣れ、落ち着いてきたと私達は思っていました……」


 エレナは目を伏せ


「……ある酷い嵐の夜でした……テレサは酷く狼狽えて……怯えていました……ですが大きな雷の音が響くと、箍が外れたかのように叫びながら走り出し、修道院から飛び出し吹き荒ぶ嵐の中に彼女は姿を消しました……」


 しばらく静寂が流れる。


「……翌日、彼女は変わり果てた姿で川に浮かんでいたところを発見されたそうです……葬儀は密葬で執り行われました……彼女を救うことができず、申し訳ありません……」


 エレナは頭を下げる


「……あ、その……テレサが大変お世話になったようで……その……ありがとうございました……」


 私はテレサの身内を名乗っていたことを思い出し、慌てて取り繕う。


 その後何を話し、どう修道院から出たのかよく覚えていない。


 ただ、あまりの異様さに呆気にとられてしまっていた。


(テレサは13年前に何を見たのだろう……?)


 そんな考えが脳裏を過ぎるが、それを確かめる術はもうないように思えた。


 そして、ハーストのあの街をもう調べない方がいいという言葉も浮かび上がってくる。


 いつの間にか私は俯き立ち止まっていた。


 私がふと視線を上げると、その先に見覚えのある女性の姿があった。


(……あれは……格好は違うけど、ヴァロワレアン卿と会った時に一緒にいた侍女の人……?)


 私は記憶を辿り思い当たる、彼女もかなりの美人だったから覚えていた。


 彼女は私に微笑みかけて、スカートを摘んで優雅に一礼し、少し先の路地へと姿を消す。


 私は反射的に彼女を追って路地へと飛び込んだ。


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