第二十一幕 助言
私は全体訓練日翌日からもう少し続く予定だった非番を切り上げさせられ、聖務(一般信者のお勤め、又は聖騎士の任務の意)に就いていた。
なんでも、教皇猊下が突然の帝都訪問に行くこととなり、その警護を務めるため聖騎士団を随伴することになり、聖都に常駐すべき人員が足りなくなったとのことだった。
私はテレサ=ワーテルスのことが気になっていたが、聖務を蔑ろにするわけにもいかず、ここ数日は退屈な任務や訓練をこなしていた。
しかし、明日からまた数日非番だ、漸く動ける。
「クーレアちゃん、最近は大人しくしてるみたいじゃん、いい子いい子」
私に対してこんな風に声をかけてくるのは一人しかいない。
「私を何だと思ってるの……?、聖務くらいはちゃんとこなすわ」
私はうんざりしながら答えを返し声の主を見る。
変わるわけもないが、相変わらずハーストは軽薄な笑みを私に向けている。
「もう少し表情に締まりをつけたら?、ハーストさんはおモテになるんでしょう?」
「やだなぁ、俺はクレアちゃん一筋だよぉ?」
私の皮肉に対してハーストは戯けて応えつつ壁に寄りかかり
「また明日から非番に入るみたいだけど、変な動きはしないようにね……こないだの片付けだって大変だったんだからさ」
「そんなことをわざわざ言いに来たの?」
私の問いにハーストは口の端を上げ
「クレアちゃんは容姿とか立場とかでいろいろ目立ちすぎるんだよ……こないだだって尾行されてたのに気づいてた?、まぁヴァロワレアン卿あたりの差し金ってとこかな……」
ハーストの言葉に私は視線を鋭くし
「あなた、何者?」
「ただの運よくここに来れた下流の喰い潰れ貴族の四男坊ですよ……まぁ、今回はクレアちゃんにちょっとした助言をしに来た……ってことで」
私の問いに答えてハーストは体を起こし
「あの街のことはもう調べるのをやめた方がいいよ……あと、ヴァロワレアン卿には気をつけな、できれば関わらないことをお勧めする……」
ハーストはいつになく真剣な態度でそう言葉を発した。
私とハーストは少しの間視線を交差させる。
「ハースト!何やってる!!今は休憩ではないぞ、持ち場に戻れ!」
聞き慣れた上司の声が響き、ハーストは大声で気のない返事をし
「……今日はこの辺でね……では、良い休日を」
軽く右手を上げていつものしまりのない口調でそう告げて去っていく。
私はその背に鋭い視線を投げかけながら見送った。
翌日の早朝、私の足は聖レザントス修道院に向かっていた。