第19幕 団欒
家に入ると、懐かしい料理の匂いがした。
キッチン兼食堂のテーブルの上には実家でたまに出るご馳走のいくつかが並んでいた。
上流貴族とはいえ、いつもいいものばかりを食べていたわけでもない、せいぜいパーティーを催した時くらいしかいいものは口に入らなかった。
そんなパーティー料理の一部をエリスは再現していた。
「エリスに今朝突然連絡をして来させてもらったが……この短時間で大したものだ……苦労しただろう」
アーネストの言葉にエリスは答え頷いてはにかんだ笑みを浮かべる。
ソバカスが散っている彼女の笑みは、愛らしくどこかホッとする不思議な力がある。
聖都は宗教の聖地としての側面が強い都市だ。
教えは清貧を旨とし、殺生を嫌うため肉類やその加工品は手に入り辛く、豆や芋をどうしても主体とした料理になってしまう。
ここに来てからエリスは好き嫌いが激しく食にうるさい私のこともあり殊更食事について苦労しているようだった。
……私もそこについては少し反省しなければいけないかもしれない。
私達は3人で食卓を囲んで食事を摂った、実家では出来なかったことだ。
実家では侍女や使用人は必ず家族とは別の場所で食事を摂っていたが、ここではエリスと食卓を供にできる……
それはこの聖都に来て数少ない嬉しい事だった。
「しかし、私達は兄なのにクレアに喧嘩で泣かされてばかりいたな……」
「あの頃は、その……ごめんなさい……」
アーネストの言葉に私は顔を赤くして謝る。
食事中の話題は昔の……もっぱら私のお転婆というか破天荒な話だ。
エリスもそんなことがあったと笑っている。
私は赤くなりながらもこの笑顔で溢れた時間を楽しんだ。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて、兄が帰る時が来てしまう。
「久々に楽しかった……また時間を作って来るよ」
玄関口でそう言って兄は帰っていき、私とエリスはその背を見送った。
アーネストは帰ってきて、暗くなった自室を術で生み出した光の球で照らし出し、見慣れた調度に隠している宝珠を取り出す。
そして、いつも座る椅子に腰掛け、光球を頭上で固定して机の上に宝珠を置き両手を翳し呪文を唱える。
すると、宝珠を中心に幾何学的な模様と無数の青い光の文字が浮かび上がり、宝珠にどこかの室内が映し出される。
「兄さん、いるかい?」




