第十六幕 食事
揺れる幾つもの蝋燭の燈の中で、食器のたてる微かな音だけが耳を擽る。
瀟洒な調度に囲まれて食事を摂っている女性と見紛わんばかりの麗人はアルフレッド=レミアル=ヴァロワレアン
ヴァロワレアン公爵家当主にして枢機卿を担う男だ。
優雅に皿の上の肉にフォークを立ててナイフを入れ軽く動かすと、鮮やかに肉は切り取られ、血が滴るような赤みを帯びた断面が晒される。
ヴァロワレアンは切り取ったそれを口に含み、咀嚼する。
どこか艶かしささえ漂う食事の様だ。
従者達は、ただ静かに立ったまま俯き主の言葉を待っている。
ヴァロワレアンは赤い葡萄酒の注がれたグラスを口元にやり、立ち上る芳香を暫し楽しんだ後に傾けて紅い雫を嚥下する。
そんな中、一人の侍女が入室してきて、ヴァロワレアンの前に立ち、優雅に一礼する。
「……ご主人様、お食事中に失礼致します」
「おかえり、アンナ……早かったね」
ヴァロワレアンはグラスをテーブルに置き、侍女に微笑みかける。
「クレア=ブランフォード様が"あの街"について調べているようです」
侍女、アンナの言葉にヴァロワレアンは口の端をさらに上げる。
「……僕のカンは当たったね……やはり面白いお嬢さんだ……」
ヴァロワレアンはワインを飲み干し、次を注がせる。
その紅を蝋燭の燈に透かして見つめながらヴァロワレアンは目を細め
「……今度彼女と相引きがしたいな……できるだけ内密に……ね、マリーにも今回は動いてもらおうかな、よろしく頼んだよ」
ヴァロワレアンは上機嫌でワインを口にした後、ステーキにまたフォークを立ててナイフを入れた。




