第十二幕 密談
応接室にヴァロワレアンとカルロスの二人だけが残り、紅茶を飲んでいる。
クレアとハーストは馬車に待機させている。
「あれがブランフォード家のお嬢さんか……噂以上のじゃじゃ馬のようだね」
ヴァロワレアンの言葉にカルロスは気難しげに眉間に皺を寄せ
「目下のストレス源であることは確かだな」
ため息混じりに言葉を吐く。
「面白いお嬢さんじゃないか、ハースト君とはいいコンビだし、一緒にいて退屈しそうにない……面白い娘を連れてきてくれて僕は嬉しいよ」
対照的にヴァロワレアンは楽しげだ。
「それは良かった……確かに表向きは彼女の顔見せだが……むしろそれより問題があると見た報告がある……」
カルロスは眼光に鋭さを乗せ言葉を続ける。
「少し前に"取引"の邪魔をされたのは覚えているな?」
カルロスの言葉にヴァロワレアンは肩を竦め
「なかなかの不運だったね、あれは……まさかあんな所に聖兵団がいるとは思わなかったからね、なんとか無事に済んだが、正直肝を冷やしたよ」
ヴァロワレアンは物憂げに目を伏せ紅茶に口をつける。
聖兵団は聖騎士団とは別の教会が有する武力組織であり、主に貴族で構成される聖騎士団に対し聖兵団は一般の有志で構成されている。
細かく違いはあるものの、聖騎士団とは別系統の組織になる。
「聖騎士団内に教皇派の内通者が居る可能性がある」
カルロスの言葉にヴァロワレアンは顔を上げて楽しげに目を細め
「なるほど……それなら説明がつくね……それが彼だと?」
「確証はないがな……だが、奴は得体が知れない、私が調べた限りではな……入団の切っ掛けになった紹介状の主も教皇派の枢機卿だ」
カルロスは紅茶を飲み干し
「当分"取引"も"悪い趣味"も控えるよう進言しておく」
ヴァロワレアンにそう告げてカルロスは立ち上がる。
「もう帰るのかい? ランチはもう入らないだろうから、よかったらディナーも食べて行くといい、良い肉を手に入れてね」
「悪いが明日は私が非番ではない、部下も待たせている……それに、お前の"悪い趣味"に付き合って私は肉が食えなくなった……」
ヴァロワレアンの問いかけにカルロスは答え歩き始める。
「つれないね……一つだけ聞かせてくれるかい? あの街にはもう二人とも行かせたのかな?」
ヴァロワレアンはカルロスの背に問いを投げる。
「昨日行ったばかりだ」
カルロスは振り向きもせずに答え、部屋を後にした。
少しの間部屋に静寂が流れる。
「アンナ……」
「お呼びになられましたか、ご主人様」
ヴァロワレアンの呼びかけに間を置かず一人の侍女が現れる。
「あのブランフォード家のお嬢さんを監視してくれ、僕のカンだと、面白いことがありそうだ……」
ヴァロワレアンは指示を出し、笑みを浮かべた。




