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「彼と会っていたの!?」
「うん……」
起きたハナに伝える。同じ人を慕う二人だからこそ、抜け駆けをしてしまったことを素直に伝える。
「私も会いたい!」
「だめだよ……まだ外にはゴブリンがわんさかいるから……」
「大丈夫、私強いから!」
そう強引に押し切られ、避難所から外に出る。
うわ、と声を上げたのはどちらだったか。
私たちの知っている学術都市は、そこにはない。焼けた廃墟と少し炭っぽいような匂い。そこに血の匂いが混じり、絶妙に気持ちが悪い。
(すごい……たった数時間でこんなことになるんだ)
災害。
魔物の大災害なんていうから、どんなものかと思っていたが、これは想像以上だった。実際こうして被害者になることで、その規模や残酷さが分かる。もしハナに言われて避難をしていなかったら、道端で死体になっている人間と大差なかっただろうことは、容易に想像できる。
「いこ」
幸いなことに、周りにゴブリンの姿は見えない。かつて道だった場所で、建物の残骸がない場所を選んで歩く。それにしても彼はどこに行ったのだろう。
そうして数分さまよいながら歩いていると、ようやく目的の人物を見つける。
「あ」
目的の彼を見つけて心がドキリとする。それと同時に隣に立つ、綺麗な女性が目に入る。
(そっか……そうだよね)
きっと隣に立つ女性は彼のいい人なのだろう。女性の私から見ても大人っぽく、綺麗な女性だ。彼とああして二人で立っていても違和感がない。誰が見てもお似合いのカップル。
「……どうする?」
「どうしよっか……」
その光景を見た、二人の足が止まる。声をかけるべきかどうするか。
またこうしてウジウジと迷う。
「……そんな自分は、もう嫌」
私は、勇気を持って一歩踏み出す。一歩一歩、彼に近づく。残り数メートルの地点で、彼がこちらに気づく。
「シューベルトさん、これ!」
そういって、彼に向かって時計を投げる。時計は綺麗な放物線を描き、彼の手に収まった。
「貴方のために作りました! 次は、私から貴方に会いにいきますね! だからそれまで、それを持っていて下さい!」
これは、自分に課した約束。
きっとまた会えるという希望を、その時計に乗せる。
「また会いましょう!」
そういって私は背を向けて、彼と別れを告げた。




