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世界樹の意思。
私は、今まで自分は比較的、輝かしい人生を送っていたと思っている。幼少期より魔力操作の才能があり、めきめきと頭角を現す。四芳姿に入り、様々な問題も解決してきた。人並みに恋だってした。
だけど、今こうして話を聞いていると、私の周りではもっと色々なことが起きていたらしい。
(私の知らないことが、私の周りで沢山起きている)
こうして彼と一緒に旅ができ、知識や視野が広がったことは幸運だった。様々な経験はまた一つ、私を成長させてくれた。
それなのに。
「カサンドラ。悪いけど、ここで死んでもらう」
「……え?」
彼の言葉が、理解できなかった。最近、私たちを悩ませていた魔物の大暴走を先導している。彼はまるで、私がその事実を知っているかのように話す。
「俺の敵は人間。強大な敵は、人類最強の女のマリだ」
彼が、一体なにを考え、何を思ってそう決めたのかは知らない。だが、そんな事実は知りたくなかった。
私はきっと、彼に憧れ、だけど恋を叶わず、そして誰かと結婚して、それなりに幸せな人生を歩む。
そんな、他人事のように自分の人生が進んでいくと考えていた。だから、こうして彼から敵対宣言をされたことに、少なからず衝撃を受けた。
「……避けられないんだね」
「ああ」
覚悟を決める。
彼の意思は固い。なら、今私にできることは、彼を力づくで止めることだけ。
「いいよ、相手してあげる」
「すまんな」
謝罪なんていらない。本当に欲しいのは、そんな言葉ではなかった。
もし私がもっと素直になって、気持ちを伝えていたらこんな未来にはならなかったのかな。そんなことを思う。
そういえばエッダが彼の事を花で例えていたことを思い出す。
「我が名は四芳姿のカサンドラ! 魔物を統べる者よ、貴方を倒し、その野望を止めてみせる!」
本当の気持ちを隠し、私は彼に宣言する。
「ブバルディアの花よ。我が想い、受け取って貰うぞ!」
落花流水の情
その前口上の意味は、誤解されることなく彼に伝わった。だからこそ彼も、紳士に彼女へ返答する。
「悪いが、その想いには応えることができない。ここで死んでもらおうか、四芳姿のカサンドラ!」




