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その知らせが村に届いたのは二人が森へ遊びに出かけた後だった。
「大変だ! 村の女衆を集めてくれ!」
「なんだ、なにがあった」
「森に狼の魔物、ハティが出たって話だ!」
「な!? なんでハティがこんなところに!」
「わからねぇがハグレかなんかだろう、とにかく村の連中に知らせて森に行かないよう注意しないと」
そうして二人は事件に巻き込まれていく。
◇◇
最近の日課になりつつある滝までの観光。ここは幻想的な光景が広がっておりとても心が癒される。アハハーと川の中で遊んでいる妹を横目に滝をみてボーっとする。はぁ、癒される。なんか心なしか魔力が研ぎ澄まされている気さえする。
そいつは音もなくスッとそこに現れた。あまりにも自然に表れたそいつに、何か滝の演出か何かだと思った。ハッと気づいた時にはもう遅く、そいつは妹のすぐ傍にいた。
「ゾネ!」
妹とそいつはジーっと見つめあう。そいつは体長が約2m程度の狼だ。体毛は少し黒く体からバチバチと紫電をまき散らす。やばい! 何かイベントフラグ踏んじまったか!
紫電を見た妹は負けじとバチバチと紫電をまき散らす。そんな対抗しなくていいから! 水の中で雷魔法使うと危ないよ! ほら、こっち来なさい!
そして急に戦闘が始まった。
「クッ!」
目に魔力を込める。雷が妹の傍に飛び、それを避ける妹。負けじと雷を飛ばすが、それを避ける狼。なんか人外合戦になってる。妹がレベルが低いこともあるが、狼を手傷を負っているのかあまり動きが良くない。これは俺が戦闘に参加しても問題なさそうだ。
「『強化』」
身体強化をして戦闘に混ざる。剣を振るうがあっさり避けられる、避けた先を狙い妹が雷を放つが、同じく雷を出し相殺される。手ごわい、そう感じて出し惜しみをしている余裕がない。ここは新技を披露する場面だろう。
「『展開』」
体のあちこちに仕込んだ紐と、その先に少し削った先の尖った石を体の周りに展開する。何度も言うが詠唱には特に意味はない。その姿は体から蛇のように伸びた唯の紐が石をもって動いているように見える。
「『飛翔』」
何度も言うが詠唱には何も意味がない。石が意思を持って狼に向かって飛んでいく。その手数の多さに避ける場所がなくまともにくらう狼。ゴブリンならこれで死ぬのだが、ゴブリンとは一味違うらしい狼は吠える。
アオオオオオオオオオオオーーーーン
なっ!? その声に体が硬直する。なんだこの魔法、声に魔力を載せたソレは相手側に何かデバフを与えるものだった。まずい、体が動かない。狼が口をあけて襲ってくる、避けれない。噛まれたら痛そうだ。
(『鉄壁』!)
口は硬直して動けないので心の中で唱える。詠唱に意味はない。
(右手はくれてやる!)
それくらいの気持ちで右手を噛ませる。痛い痛い! 本当に嚙みちぎられそうになり、少し涙目になる。
「ゾネ!」
「お兄さま!」
右手に噛みついて動けない狼に向かって、妹は大技を放つ。
「『お兄さまに何噛みついてんのよー!』」
その右手は相手の腹を打ちつける。魔法っぽい感じだけど、ただの魔力を叩きこむ殴り技だった。
狼は吹っ飛び木に体を打ち付けて動かなくなる。おっと、レベルアップ酔いがきた。今ので魔力レベルが上がったのかな。
戦闘が終わりレベルアップ酔いが収まったあと、傷の具合を確かめる。噛み付かれた後がクッキリ残っている、これ治るかな?
「お兄さま! 大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫大丈夫。持ってきた荷物の中に包帯とかあったっけ?」
妹に簡易医療道具を持ってきてもらい治療する。うーんこれは痕が残りそうだ。家に帰ってから父に直してもらおう。
いったん家に帰るべきだと思い腰をあげると、狼が虫の息でまだ生きていることが判明した。
「お兄さま、この子を私のペットにしてもいい?」
「え? い、いいけど……」
どうやって? そう思っていると妹は狼に残りの医療道具を使って手当てをして、プカプカと浮いている魚を狼の前に差し出す。
「よしよし」
うーん、魔物を手懐ける方法かぁ
前世の記憶を探る。そうすると様々な方法で魔物を手懐けるシーンが思い浮かぶ。どれが正解だ?
「餌を与えて仲間にして欲しそうな顔をしていたら仲間にする、これかな?」
「あ、みてみてお兄さま! 鼻を手にこすりつけて仲間にして欲しそうにしてる!」
「お、じゃあこれで仲間になったのかな?」
本当にこの方法でいいのか? まあ別に害はなさそうだしいいか。
流石に村には連れて帰れないので、ここで待っているように指示を出す。伝わっているかは分からない。
一仕事終えてコッソリ村に帰ると村が騒然としていた。なにかあったのかな




