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王都から少し離れたところに、その都市はある。最近、王都ではその都市の話題がよくあがる。正確には、都市周辺の村々についてだ。
「おい、聞いたか。また村が無くなったってよ」
魔物に襲われて、村が崩壊する。都市の領主は対策のため、騎士団を巡回に回すが、未だ村が崩壊している理由には辿り着けていない。村の中に冒険者を配置するも、その冒険者ごと村が跡形もなく消え去っている。
辛うじて魔物の仕業だとわかるのが、崩壊した村に足跡が残っているためだ。
「いつかこの都市も襲われるかもな」
「ありえるな……」
そんな噂話を聞き流しなら都市を歩く。ここに住む人間は、噂では都市もまずいかもしれないなんて思いつつ、結局他人事で、自分たちは安全だと思っている。まさか都市が襲われるわけがない、と。
平和ボケもいいところだ。少しでも危機感がある人間は既に、この地域から逃げ出している。
ここに残っている人間は平和ボケした人間か、何かしら目的があってこの土地にいるもの。かくいう私も、とある目的のためにこの土地を訪れている。
街の中は普段と比べると人数が少ないが、まだまだ平和ボケした人間が歩いており、そこそこの人がいる。その間を縫って私は冒険者ギルドへ情報収集のために向かう。
(噂では彼がいるかもしれない……)
これは知り合いから聞いた話で、まだ上層部でも一部の人間しか知らない事実だが、村を襲った魔物の集団の中にローブを被った人間らしき姿を見た。そういった情報が入ってきている。
1年前、あの大会から忽然と姿を消した彼。噂では前線都市に向かったという話だけは聞いているが、その後の足取りが全くつかめなくなっていた。そしてその噂の真相を確かめるため、今回私はこの都市に来た。
(かなり望むは薄そう……)
街の人間の噂話を聞いている限り、魔物に後手を踏んでいる。次に、どの村が襲われるかの予測すら立てられていないこの状況では、彼を探すどころか、村々を守ることだって難しそうだ。
無駄足で終わりそうな雰囲気に、はあ、とため息を付く。
ふっ、と隣をすれ違うローブを来た人間。
ドキリとする。
そんな、まさかと。
あまりの不意打ちに心が戸惑う。
バッと振り返り、その男性を追う。
間違いない。
その背格好、その歩き方。
彼の右手を捕まえる。
「見つけた!」




