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「我々は貴方に降伏する。これからは貴方の指示に従おう」
「……」
ダメだな、潔いのはいいが、今欲しいのは人間の最強クラスに勝てるような戦力だ。強い相手に挑むのではなく、あっさりと傘下に収まるようなタイプは戦力として数えられない。
「いらん」
「ま、待ってくれ! 女もつける、ほらそこにいる女もだ!」
チラリと、隣の彼女を見る。別にいらないのだが、ここで『いらん』と答えるのも角が立つな。考えたなこいつ。
黙っているこちらを見て、交渉がうまくいっていると勘違いしたダークエルフの男は続けて、村の女も差し出すといっている。
「……どちらにせよ、お前はいらんな。ここで殺しておく」
「な!」
そもそも交渉というのは、ある程度対等な立場だからこそ成立する。こんな状況下で、交渉事をしようというのが傲慢だ。
「待って下さい!」
先ほどまで、地面に腰をおろしていたダークエルフの女性が立ち上がる。
「その男は、私に殺させてください」
「……へぇ」
女性の目は強く、先ほどまでの悲壮感のようなものがない。それは、何かを決意したような目つきだった。
「お願いします」
一体この短時間で、何が彼女にそう決断させたのだろうか。俺の発言か、もしくはこのダークエルフの男の発言が、彼女を奮い立たせた。
(これが炎の精霊が言っていた、心が強いってことか?)
分からない。分からないけど、この二人の結末を見てみたくなった。
「いいだろう。二人で戦って生き残ったほうを傘下に加える」
「ありがとうございます」




