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(一体なにが……)
大地が揺れるなんて、初めての経験だ。先ほどの揺れで、村の天井からパラリと石がこぼれる。まるで大地が怒っているような、神の怒りにでも触れてしまったのだろうか。
コツコツと、足音がこちらに向かって歩いてくる音が聞こえる。
静寂に包まれたその場に、足音は良く響く。全員がそちらに注目すると、そこには見慣れない男性が立っていた。
「な、なんだてめぇは!」
「あ?」
その男性は、ひどく疲れたような声でこちらに返答する。
「さっきの揺れはなんだ! てめぇの仕業か!」
登場したタイミングと、見慣れない男性を関連付けてしまうのも仕方ないのかもしれない。
「……」
「てめぇ……なにもんだ」
男性は、チラリとこちらの状況をみる。何を思ったかハァと一つため息を付く。
「……使えないな」
「なんだと?」
「おいお前、この村で一番強いやつを連れてきてくれ」
「……俺がこの村で一番強い」
「……期待外れだ。炎の精霊から、ここには強者いると聞いてたんだが、いたのは卑怯者の雑魚だけか」
まるで、村長たちを煽るような物言い。いや、この男はもしかしたら本当に煽っているのかもしれない。状況を把握し、あまりの惨状に辟易とした男性は、この惨状に怒っているのだ。
(……まさか、私のために)
もしそうだったとしたら、嬉しい反面、同情されるような状況を作ってしまった自分に恥ずかしくなる。
「お前ら! この男を殺せ!」
ついに村長の堪忍袋の緒が切れ、村人に指示を出す。状況は先ほどと何も変わっていない、圧倒的な人数差を覆すだけの力がこの男にはあるのだろうか。




