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162:アルノーの今

 僕は、ゴブリンに関する一切の仕事を担当している。


 僕の雇い主である王に、一度聞いたことがある。僕が、こんなに権限を持っていいのかと。王は笑って答えてくれた。


「三面等価の原則というやつだ」


「なんでしょうかそれは……?」


「仕事を任せる時に、権限、責任、説明の義務を委託することで、任務が成功しやすいという原則だ。結果を俺に報告することと、目的さえ間違わなければ、あとはお前の好きなようにやればいい」


 これで元々は、僕と同じような村の出身だというのだから凄い。一体どこで、そういう知識を学んだのだろうか。


僕がやることは、戦力の補充。


 とにかくゴブリンの数を増やすこと。それと同時に、できれば強いゴブリンを増やすことになる。まだまだ謎が多いゴブリンのため、様々なことを検証しながら数を増やしていく。


例えば、喋れるほどレベルのあげたゴブリンの子供は、通常の子供と違うのか。


例えば、傷をつけ生存本能を刺激したゴブリンだと、何か変わるのか。


例えば、生まれたゴブリンの子供通しで戦い合わせ、生き残ったゴブリンは強くなるのか。


 先日仲間になった女頭領から、イカレてやがると言われたが、僕からみると彼女の性癖の方が、イカレている気がする。逆にいえばイカレているからこそ、こんな土地で暮らしているのかもしれない。


夕方になり仕事が終わる。


 先日めでたく僕の家が建ち、今は彼女と一緒に暮らしている。


「ただいまー」


「お、おかえりアルノー」


 先日の一件から、彼女が大分怯えた性格になってしまったが、僕はこっちのほうが好みだ。僕は今、とても幸福を感じている。


「ね、ねぇアルノー?」


「どうしたんだい、ハンナ?」


「できれば、この足の鎖は外して欲しい……んだけど」


「え?」


 彼女の足には足枷が嵌められており、その足枷から伸びた鎖は建物中央の柱へと繋がっている。


「だめだよハンナ。それを外して、もし君が外に出てしまったら僕が狂ってしまうかもしれない」


「で、でも……」


「大丈夫だよハンナ。だって君は外に出る必要なんてないんだ」


 僕は今、とても幸福を感じている。家族のために戦力を増やして、この場所をもっともっと安全な場所にしないと。


「だから安心して、家に居てね」


 僕が君を守るから。

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