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110:敗者復活戦の相手

「オスカー、一緒に帰ろう」


 場所は学術都市。私はこの学術都市で出会ったオスカーと数か月前から付き合いだした。彼はとても優しく紳士で、きっと将来一緒になったら楽しく過ごすことができるだろうと感じるほどに、今が幸せだった。


今、彼が浮気をするまでは。


 研究室の一室。オスカーに声をかけ帰ろうと部屋に入ったところ、彼が別の女性とキスをしていた。


「こ、これは違うんだ――」


 その女性は、私もよく知っている人物だった。


「え――どういうこと?」


「いや――彼女とは、そう! 本気ではないんだ」


「……本気じゃないと、いいと思ったの?」


「あ、いや……すいません」


「ダメだよね? それに謝って済むと思ってるの? そもそもなんで謝るなら浮気なんてするの? ねぇ、なんで?」


「……」


「私の事を、本気で愛してるの? それなのに、何でその女なの? 私と知り合いなの、知ってるでしょ? ねぇ? ねぇねぇ? ねぇねぇ!!」


「あ、あの――」


「今は彼と話してるの! あんたは黙ってなさい!!」


「ご、ごめん……」


 グルリ、と彼に視線を向ける。


「ごめん、もうしないよ……」


「ダメ。もう貴方の言葉では信じられない」


 どうしようか、彼と別れるという選択肢はない。だけど彼の言葉を信じることができない。どうにかして彼が浮気ができないようにしないと……


ああ、そうだ。


「貴方の事をもっと知ればいいんだわ」


「え?」


そうよそうよ。今回だって彼だけが悪いんじゃない、彼の希望に応えきることができなかった私にだって責任がある。だからもっともっと彼の事を知ることができれば、きっと彼は私に夢中になって浮気なんてしなくなる。そうだ、そうしよう。


でも、どうすればいいのかしら。


 何をすればいいのか分かったので、ようやく少しだけ落ち着いてくる。思ったより自分が興奮していたのか、ドクンドクンと心臓の音がうるさい。


「あ、そうだ。心臓の音が聞ければもっと貴方の事を分かるかも」


 それから彼女は、彼のために魔法を極める。彼の心音を聞くためだけに。その魔法は、彼女の情熱が勝ったのか完成した。早速使ってみて、彼の心臓の音を聞いていると、とても落ち着く。


ドクンドクン


遠く離れていても、心音が聞こえるのでとても安心できる。あ、今ちょっと緊張してる。


ドクンドクン


あ、今は少し落ち着いてるかな。きっとソファーにでも座ってくつろいでいるのかな。


ドクンドクン


今はちょっと興奮してるのかな? シャワーでも浴びているのかな。


 そんな感じで、一年が過ぎたあたりに彼から別れを告げられる。


「ごめん、もう無理だ……」


「……」


 なんとなくわかっていた。こんなにも私は彼の事を愛していたのに、彼の心音を聞いていると私と会うたびに、彼の気持ちはドンドン冷めていった。


 本当は別れるのは嫌。だけど彼が覚悟を決めてその別れを告げているのも分かる。こんな時、私はどうしたらいいのか分からなかった。


心音が聞けて彼の気持ちが分かっても、彼の気持ちを変えることは出来ない。


 結局、彼の決意を覆すことができず別れることになり、彼は地元に帰ってしまった。それから私は少し自暴自棄になって剣術を極めていくのだが、それはまた別の話。


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