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プロローグ

パンッ! 


という乾いた音が響く。妻の頬を叩いた音だ。妻が床に倒れる。


(あっ……)


 と思った時には、手が出てしまった。まずいと思い、すぐ謝罪(シャザイ)をしようとする。


「すま――」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 妻がうつむき謝罪を繰り返す。その剣幕に押され、謝罪はタイミングを失う。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 謝罪を続ける妻の姿に戸惑い、少し怖くなった。結局、その姿に何も言えずにその場から離れ寝室へ向かう。寝室にはベットが二つあり、自分のベットに座る。


(はぁ……やってしまった……明日、妻が冷静になったら謝ろう)


 本当に些細なことでの喧嘩、こういう時は大体男が悪いと相場が決まっている。手をあげてしまったのもよくない。男はまだ若く、結婚して間もない。普段は喧嘩をしても口喧嘩だけだったけど、結婚をして初めての大きな喧嘩だった。特に今日は仕事でイライラしていたからか、手がつい出てしまった。


 『だから明日の朝、起きたら妻に謝ろう』


 そう思い男性は寝床につく。



深夜


 キィ、という音を立て、妻が寝室に入ってくる。ヒタリ、ヒタリと妻は素足を滑らせながら歩く。夫のベットの隣に立ち、スヤスヤと眠っている夫を見下ろす。数秒間、妻はその場で固まり動かない。


 そして、手にもっている包丁を突き付けた。


「がっ――はっ」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


「ま、まて――」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 何度も、何度も、夫を刺す。何度も、何度も、何度も、何度も。声が聞こえなくなっても、何度も、何度も。

 しばらくの間刺し続け、夫が全く動かなくなる。臓腑は撒き散らかり、ベットの上や床には大量の血が流れている。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 そして最後に、妻は自分の首元に包丁を持っていき、自分の首を刺す


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ―――」


◇◇


とあるマンションで、サイレンの音が響き渡る。


「―――原因は、刺されたことによる失血死とのことで―――」


「二人は心中自殺をしようとした模様で―――」


そんな男の最期は、苦痛に満ちた表情だった。


◇◇



「――――ぷはぁ! はぁ…はぁ…はぁ…」


 い、生きてる……なんとか一命を取り留めたのか。まさか刺してくるなんて信じられん。自分の体や首を触り、傷がないかを確認する。


「大丈夫かい、大分うなされていたみたいだけど」


「ああ、だいじょ……」


 声に反応して、返事を返そうと思い違和感を感じる。隣を見ると、知らない男性がいた。そしてなにより自分の声が高く、見た目も小さくなっている。


「え――?」


 どうやら俺は転生して、生まれ変わったらしい。

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