女たちの決断
「もう、ヴィズさまったら、どこに行くかも言わずにいなくなっちゃうんだから!」
蜘蛛娘が珍しくエールのジョッキをあおりながら、目の前に座る雇用主に向けてクダを巻いている。
そんなアリアの様子を見つめながら、この店の主であるビーネもやれやれとばかりに、ふうとため息をついた。
ビーネにはなんとなく、ヴィーネウスが姿を消した理由がわかる気もする。
「これから私たちはどうすべきなのでしょうね」
まずはザーヴェルを落とすと決定し、ウルフェを通して連射花火団に対して出兵を要請してきたログウェル卿らの考えを馬鹿にするかのように、もう一度ビーネはため息をついた。
連射花火亭に集まってきた情報を整理すると、答はどうしても一つに集約してしまう。
規律を貴ぶイエーグによる無分別な国境侵犯。
知識を貴ぶザーヴェルによる無軌道な魔道兵器稼働。
信仰を貴ぶヒュファルによる無差別な自爆攻撃。
王都ミリタントを裏で束ね、民の平穏とバランスを司る、路地裏の女帝ビーネ。
クリーグの政治を裏で網羅し、クリーグにとって常に最適な解を導く、影の大臣リルラージュ。
王家の意志を暴走させることなく、その威厳と存在を支え統率を維持する、王家の側室オデット。
この三人が一致させた結論。
それは、多分それぞれの国で、同時に王が狂った。
そしてそれぞれの民は、狂った王に振りまわされている。
「クリーグの名でどれか三国のうち、一国でも落としてしまえば、次に来るのはクリーグ王家による大陸の覇権狙いでしょうね」
ビーネの予想にリルラージュは深刻そうな表情で頷く。
「でも、今のクリーグ王家にこの大陸全土を治める甲斐性はないわ。ならば王家が何を始めるかは想像できるわね」
オデットもつまらなそうに首を振る。
「身の丈に沿わない権力者がまず行うのは粛清ですからね。他の三国では多くの血が流されることでしょう」
三人は同時にため息をつく。
ならばどうするか。
「いっそのこと、三国を民間で堕としちゃおうか」
「あらビーネ、私も実は同じことを考えていたわ」
「ビーネもリラも物騒ね、でもそれが一番かしら」
意見が一致した三人は、それぞれが美しい顔に黒い笑みを浮かべると、酔っぱらって突っ伏している蜘蛛娘にちらりと目線を送り、悪だくみを開始したのである。
◇
「主にこの計画を伝えろと?」
「嫌ならここで死んでもらうけど。ウルフェ」
「そうではないが……」
いつものように連射花火亭へ呼び出されたウルフェは、いつもとは異なる厳しい表情のビーネから聞かされた計画に、驚きの表情を隠せない。
「リラも承知と言ったら、あなたも少しは安心できるかしら」
「リラも承知、ということは、民族同化大臣と貿易担当大臣も承知ということか」
「ついでに言うとオデットも承知よ」
「つまりは王弟もか」
ウルフェは観念したような表情を見せる。
「わかった。どのみち二人の大臣から主には話が行くであろう。私はそれを補足することにするよ」
「お願いねウルフェ、今回の計画には、クリーグという国の名を背負った、サムライハウンドも必要なのだから」
「ああ、光栄だと言っておくよ」
ビーネたちにそう言い残し、ウルフェは連射花火亭を後にした。
◇
それから数日後のこと。
貸し切りとなった連射花火亭に多くの面々が集結した。
蜘蛛族アリアにはウルフェたちクリーグ軍総司令官直属部隊サムライハウンド。
姑獲鳥メーヴと哭鬼族クレムにはカサンドラ率いる蟲獣蜜蜂族。
そして竜人族の巫女レイにはダンカンたち連射花火傭兵団。
リルラージュが代表して彼らに檄を飛ばす。
「イエーグは政治、ザーヴェルは情緒、そしてヒュファルは信仰で堕としてらっしゃい!」
続く歓声とともに、彼らは三方向に向かったのである。
◇
「で、サキュビーとやら、貴様は傍観を決め込むのかの?」
「現世の存在であるあなたが自らを棚に上げて、虚世の存在である私にそれを口にするの、マンティス?」
「ははさま、私はもっとミリタントでルビィ姉さまたちと遊んでほしいのです」
「サキュビー姉さま、私もこの子ともっと遊びたいの」
最後に青い瞳の歌姫がつぶやいた。
「私は永遠に歌っていたいわ」
それを合図に、現世と虚世のバケモノ二人は、やれやれと重い腰をあげた。




