女子会
最奥の席に着いたオデットは、あらかじめ用意されていた水で、喉を潤してから切り出した。
「主からの託よ。まずは雑貨屋線香花火から何でも結構ですから、ダミーの商品を荷車で主の屋敷に届けてください。その代金として、帰りの荷車に当面の軍資金を積んでこちらに届けます」
「ありがとうオデットさん。助かるわ」
お礼を伝えたのは、この店の女主人である森林族のビーネ。
彼女のお礼に合わせるかのように、同席している女性たちもオデットに会釈を返した。
「それじゃ改めて話を整理しましょう。ウルフェ、お願い」
ビーネの指示にクリーグ総司令官直属部隊、通称「サムライハウンド」の隊長である人狼族の女性が頷くと、クリーグを取り巻く現状を皆に改めて説明を始めていった。
一通りの説明後、平原族の美しい少女が優雅に手を上げた。
「状況はウルフェ隊長が説明したとおり、微妙な状態といえます。ここで万が一にも、国に属する者が動いたと他国に気取られ捕えられてしまったら、それを口実に他国同士が同盟してこちらに攻めてくるかもしれないわ」
リルラージュは言葉を続けていく。
「だから今回は、国の関係者に連なるオデットさんと私、それにウルフェ隊長はこの店に訪れるまでが行動の限界。それに一応シルクは民間の立場ですけれど、ヴィッテイル卿との関係を考えますと、海豹組はともかく、彼女自身は表に出したくはないですね」
などと申し訳なさそうにしているリルラージュに、蜜蜂族の女王が声を掛けてやる。
「リラは元々頭脳労働担当であろう。お主はここでビーネとともに、悪だくみへと舌なめずりをしていればそれで問題ない」
「カサンドラの言う通りさ。権謀術数はリラとビーネに任せて、私たちはそれに従って悪さをやらせてもらうよ」
蜜蜂族の女王と蜥蜴族のサラの軽口を合図に、女性陣は姦しく作戦会議へと取り掛かっていった。
「のうビーネ、わしらそろそろ飲んでも構わんか?」
日が落ちかけても、なぜか楽しそうに続く女性たちの作戦会議に、辛抱たまらないという表情で、まずはダンカンが会議の議長を務める彼の妻に、そっと懇願した。
その横では完全にふてくされた様子のヴィーネウスが片肘をついて横を向いている。
「大体なんで俺がここにいなきゃならんのだ」
「あら、ヴィーネウスさま。あなたは協力してくれないの?」
「俺が協力する理由などないだろうに。そもそも俺は仕事の話だからとアリアに連れてこられたんだ。つまらん、もう俺は帰るぞ」
するとビーネがくすくすと笑いだす。
「そうね。それじゃ旦那様たちと隣で飲んでらっしゃいな。間もなくヴィーネウスさまへの仕事の依頼もまとまるでしょうから。それじゃアリア、お願い」
すると蜘蛛族の娘がダンカンとヴィーネウスの間に後ろから身体をねじ込むと、帰さないとばかりに二人の腕を両手に抱え、楽しそうに隣の部屋に引っ張っていってしまう。
その背後を当然のように蜜蜂族のオクタも無言でついていき、その姿をカサンドラが目で追っていく。
「うちの亭主もすっかりここの一員だね」
カサンドラのため息に気づいた娘のエイミは、母が見せるあきれた表情とは反対の頼もしそうな表情でうなずいた。
それからさらに数刻後が経過した。
「それではこれで行きましょう」
ビーネのまとめに同席する女性たち全員が頷いた。
「それじゃ私たちも決起としゃれこもうか!」
サラの号令で個室に酒と料理が運び込まれ、そこから本格的な女子会が改めてスタートしたのである。
「のうヴィーネウス」
「なんだダンカン」
「隣の女子会、楽しそうじゃの?」
「そう思うなら行って来い」
「わし一人じゃ恥ずかしいもん」
「ならばオクタを連れていけ」
「オクタ、わしと一緒に行かぬか?」
「断る」
「それじゃあたしは姐さんたちに合流してくるねー」
そう言ってアリアだけが女子会の宴席に戻り、おっさんたちはその場に安酒と共に残された。
結局おっさん三人は、この日は女性どもから忘れ去られたままとなった。
こうして華やかな宴会とぐだぐだな飲み会は夜更けまで続いたのである。
翌日、先王弟の屋敷から金貨を満載した馬車が戻ったのを合図に、彼ら彼女らは再び動いた。
策謀を張り巡らせるために。




