竜少女-生まれ変わる者-
それは数日後のこと。
無事クリーグに戻ってきた一行は、各々が自由に旅の疲れを癒している。
今回の遠征でダンカンたちは、イエーグから支払われた傭兵契約料、問題解決料、ヒュファル兵から身ぐるみ剥いだお宝、ヒュファル兵殲滅料など、総計で金貨二千枚ほども手にしている。
さらに非公式ながら、今回の遠征はクリーグ軍総司令官ログウェル卿からの依頼でもあったので、ここでも依頼料である金貨百枚およびヒュファル兵の命一人当たり金貨一枚の収入を得ることができた。
当然ヴィーネウスやサラ、アリア、そしてオクタ、エイミにも分け前があり、ヴィーネウスはそれに加え「バーサーク・レギオン」でよれよれになった団員どもから、イエーグ出発前の治癒料として一人一律金貨一枚をぶん取っている。
若い連中は文句たらたらだ。
「ヴィーネウスさんってがめついよな」
「でもあの治癒がなければ俺達今頃イエーグでミイラになっているぜ」
「でも金貨一枚はねえよなあ」
そんなルーキーどもをサラがなだめてやる。
「まあまあ、命が金貨で買えるなら安いもんさ。それにもうすぐ旦那の治癒は不要になるからね」
「どういうことだい姐さん?」
不思議そうなルーキーどもの表情が、その時にはどんな表情に変化するのだろうと想像しながらサラは、両手を肩の位置に挙げておどけて見せた。
「さてね」
きょとんとしているルーキーどもをはぐらかすと、サラは新たに開店した小売店の様子を見に出かけた。
「いらっしゃいませ! あ、姐さん!」
リルラージュは、ビーネとサラの連射花火亭と手を組み、新たに「雑貨屋線香花火」を王都ミリタントに開店させていた。
この店では、サラが各地で目星を付け、リルラージュとカサンドラ率いる蜜蜂族、それにいつの間にか悪巧みに引き込まれたシルク率いる海豹組を使って、仕入れた食材や小物を販売している。
とはいっても、この店はいわゆる「アンテナショップ」のようなもので、単なる物品販売だけでなく、様々な商品を広く紹介することによって、新たな市場開拓を行うことを主な目的としている。
もし店を訪れた客が、気に入った商品の大量仕入れを希望すれば、それに合わせて物流を整備し、直接大口取引を開始する。
こうした事業までリルラージュは計画しているのだ。
本日店番をしているのはエイミ。
彼女は先の遠征後、他の蜜蜂族とは少し様子が変わってしまった。
というのは、彼女は他の姉妹たちが馬鹿にし無視している彼女らの父親に、思いっきりなついてしまったのだ。
その父になつく姿が他の娘たちの目には滑稽に映るらしく、エイミは姉妹との居心地が悪いものになってしまう。
するとちょうどそこに、今回の出店に関わる従業員募集が、うまい具合に開始された。
そこでエイミはすかさず募集に手を上げ、住み込みで雑貨屋線香花火の従業員となってしまった。
「あら、レイはお出かけかい?」
いつもならば店内で掃除などをしているレイの姿が見えない。
するとエイミはサラへ当然のように答えた。
「レイなら介護院へ配達に行きましたよ」
「そういやそうだったね」
竜人族のレイは結局サラが引き取り、ヴィーネウスに金貨五十枚を支払って治癒魔法の講義を受けさせた。
その後、レイもヴィーネウスの「自分の食い扶持は自分で稼げ」という指示に従い、小売店での店番を始めたのだ。
ちなみに住み込み部屋は、遠征の帰り道で意気投合したエイミとシェアしている。
これらはすべてヴィーネウスとサラの仕込みである。
実は二人とも、レイへのヒュファルからの追手を懸念していた。
なので彼らは「森に木を隠す」作戦を実行したのだ。
まさかヒュファルの連中も、重要人物であるレイが、衆人の目に触れる雑貨屋で店番をやっているとは思わないだろう。
それにクリーグでは、竜人族は珍しくもなんともないのだから。
サラは事あるごとに、レイへと様々な仕事を指示した。
それは店番はもちろん、配達や炊事洗濯、清掃など。
その姿はさながら修行に打ち込む修道女といった様子。
ところで、サラの指示には一つの共通点がある。
それは必ず「この仕事はこの人に教わってきなさい」と、相手を命じること。
そうしてから依頼状をレイに持たせてやる。
あるときは蜜蜂族の巣でメーヴから料理を学び、あるときは介護院でクレムから清掃のコツと、ちょっとした護身術を学んだ。
こうしていつの間にか、レイは様々な女性たちとの交流を広げさせていった。
◇
その夜のこと。
女主人ビーネは、共同経営者のサラ、亭主のダンカン、その悪友ヴィーネウス、それに今回はオクタとカサンドラの夫妻を交えて宴席を開いた。
店一番のボトルを開け、ビーネは各々のグラスに注いでいく。
続けて静かな乾杯。
「で、ヴィーネウス。次は何を企んでいるの?」
微笑むビーネ。
「何もないさ。レイもお前らも同じだよ」
そうそっけなく返し、高級酒を舐め始めるヴィーネウス。
ダンカンとオクタもそれにならって、へらへらと酒を舐め始めている。
「まあ、将来何をやらかそうがあの子の自由だよ」
サラも楽しそうに酒を口元に運ぶ。
そうねと呟きながら、ビーネは話を変えた。
「ところでカサンドラ、エイミはあれでいいの?」
「ああ、あの子には『資質』があるからのう」
「女王のか?」
ダンカンの指摘にカサンドラとオクタは頷いた。
「あの子は今、蜜蜂族の男にだけ効果があるフェロモンをまき散らしておるのじゃ。わらわがこやつを引っかけたときのようにの」
カサンドラの言葉にぴくりとオクタが反応した。
「そのうちあの娘のところに蜜蜂族の男がやってくるはずじゃ、求婚をしにな。そうしたらエイミは子を育み新しい群れを率いることになる」
そう続けるカサンドラ。
「そう上手く行けばいいけれどな」
「エイミに惚れる蜜蜂族の男どもは大変だのう」
ヴィーネウスとダンカンのからかうような物言いに、カサンドラは訳がわからないという表情をし、オクタは露骨に顔をしかめた。
「エイミのハードルが高くなったという事ね」
「それにエイミの元にやってくるのは、蜜蜂族だけじゃないかもよ」
サラとビーネも、おっさんどもが発した言葉の意味することに気付き、うふふと笑いあう。
その二人の表情に、カサンドラはますます訳が分からなくなり、オクタは一層顔をしかめた。
そのころ、エイミはレイやアリアとともに、傭兵団の若手どもと大宴会を開いていた。
それはいつものノリ。
「アリアちゃん、俺と魚屋を始めない?」
「やーよ、わたしはヴィズさまの愛人だもん」
「ねえねえ、レイちゃん。平原族って嫌い?」
「……わからないです」
「エイミちゃん、思い切って俺と結婚しよう!」
「パパと勝負して勝ったらね。パパは強いんだから!」
そう、現在のエイミはとーちゃんからパパに昇格したオクタが大好き。
さらにエイミの周りには既に蜜蜂族の男が新規で割り込めるような場所は、ほとんど空いていないのだ。
こうしてクリーグの夜は、喧騒の中更けていく。




