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女衒-女を売り飛ばす者-  作者: halsan
花開くとき
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誘拐

 ダンカンは連射花火傭兵団スターマインマーセナリーズの雇用者である、イエーグ前線司令官の元を訪れた。


 司令官も東の街から転送された指令書の記述により、目の前に立つドワーフが束ねる傭兵組織の実力は把握しているので、特に問題なくダンカンを招き入れた。


 司令官はダンカンにソファをすすめると、自らもローテーブルをはさんで反対のソファに浅く腰かけた。

「今日はどのような用件だ?」

 目の前のヒゲダルマから伝わる迫力に威圧されながらも、司令官は努めて冷静を装っている。


「実はの」


 ダンカンの説明に、司令官はいちいちうなずいていく。

「確かにその可能性は高いな」

「あくまでも可能性じゃからの、そうならない場合の対策も考えておる」

 ダンカンも司令官が何を言いたいのかは理解している。


「そこで、こんな作戦はどうかの?」

「むう」


 ダンカンからの提案に、司令官は思わずうなった。

 彼の提案はイエーグを利するものではない。

 しかしどちらのリスクを取るかといえば、答えは決まっている。

 

「確かにどちらに転んでも当方の不利益になるのならば」

「金で済む方がまだマシじゃろう?」


 にやりと笑ったダンカンに、司令官は顔をしかめながも答えた。

「わかった、それでは作戦に対してのこちらからの条件を提示しよう」


 その後ダンカンは司令官から、国境にほど近い場所で、新たに団の宿舎を借り受けた。

 


 一方、サラは数人のルーキーどもを引き連れ、街の郊外を探索していた。

 しかしサラもルーキーどもも、あちこちに目線を送ったり、地面や樹木に何らかの痕跡が残っていないか確認するなどの、いわゆる探索作業は一切行っていない。

 なので彼らを目撃した者たちは、単に傭兵が時間つぶしに郊外をぶらぶらしているのだろうと解釈し、彼らに注目することもなかった。


 しかし彼らは確実に探索を行っていたのだ。


 サラの胸元から声が響く。

「サラ姐さん、少し右をまっすぐ」

 するとサラは声に従うかのように自然と体の向きを右に向け、ぶらぶらと歩いて行く。

 ルーキーどもも、雑談をしながら、何の違和感も感じさせずサラの後についていく。


「もうすぐだよ」

「そうかい、それじゃ周りに人もいないし、戻っておいで」


 すると、サラの呼び掛けに応じるかのように、ぽんっという小さな音とともに、いつもの黄色い衣装を身に付けたアリアが姿を現した。

 そう、ここまでアリアは彼女が持つ探索能力を使い、サラの胸元で竜人の気配を探していたのだ。


 アリアはみずぼらしい小屋にサラたちを先導して行った。

 小屋の近くまで来たところで、まずはサラが一歩踏み出し、かつての黒蜥蜴を思わせる軽快な動きで静かに小屋に近づいてゆく。


 扉付近で小屋の中をそっと(うかが)ったサラは、にやりと笑った。

「ビンゴ」

 サラがアリアたちを手招きすると、打ち合わせ通りルーキーどもは小屋を静かに取り囲み、アリアはそっとサラの横に並ぶ。


 二人が息を合わせたところで、サラは勢いよく小屋のドアを開いた。

 続けてアリアが小屋に突入し、両手から糸を飛ばしながら挨拶よろしく小屋の中に笑いかけた。

 

「こんばんは、誘拐でーす!」


 小屋に潜んでいた二人は、何事が起きたのかもわからないまま、蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされてしまったのである。



 ダンカンが新しく借り受けた宿舎では、ヴィーネウスたちとダンカンたちが合流し、最後の段取りを整えている。

 そこにサラたちが、ぐるぐる巻きのまゆのような塊を二つ抱えたルーキーたちを従えながら戻ってきた。

 

「それじゃ糸を解くわね」


 宿舎の一角にころがされた繭をアリアが指先でなぞると、糸はまるで彼女の指先に吸収されるかのように消えていく。

 すると中から中年男が一人と、幼い少女が一人、ぐったりとした表情で姿を現した。

 但し、二人とも両手と両足の戒めは解けてはいない。


 二人の耳の辺りには、特徴のある角が二本。

 そう、彼らは竜人族である。

 

「貴様ら、何者だ」

 中年男が声を絞り出すが、サラは男の疑問には答えず、逆に質問を重ねていく。

「あんたら、ヒュファルから逃げてきたんだろ?」


 サラの問いかけに男は目線をそらし、無言となる。

 その横では少女が糸で両手両足を封じられたまま、怯えきった表情となって震えている。


 そんな二人にサラは再び冷たく問いかけた。

「ヒュファルの神兵どもが追っているのは、あんたらだろ?」

 しかし男は目線をそらしたまま動こうとせず、少女も恐怖のためか、がたがたと震えながら唇をかみしめている。


「それじゃヒュファルに売り渡すとするかね」

 呆れたような表情でそう言い放ちながら、サラがダンカンたちに振り返ったところで、男はやっと口を開いた。

 

「それだけは勘弁してくれ。いくらだ、いくら払えば解放してくれる?」

「誰が金を払ってくれるんだい?」

「イエーグの司令官に連絡を取ってくれ。ヒュファルからの亡命希望者がいるとだ!我らはヒュファルの貴族だ。イエーグ司令官に売る程度の情報はそれなりに抱えている!」


 そんな見え見えの言い訳に噴き出しそうになってしまい、つい後ろを向いてしまったサラと代わるように、ヴィーネウスは男に向かった。


「ならば貴様が司令官から金を取ってこい。それまでこの娘は人質とさせてもらう」

 さらに彼は続けた。

「リミットは明日の夜明けまで。それまでに戻らなければ、この娘は国境にいるヒュファル軍に売り飛ばす」


 ヴィーネウスはそう言い放つと、男を外に放り出した。

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