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女衒-女を売り飛ばす者-  作者: halsan
花開くとき
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退屈しのぎ

 ここは信仰の国ヒュファルとの国境にほど近い、イエーグの南方に設営された砦街。


 サラ、アリア、エイミの三人は、連射花火(スターマイン)亭の仕入先開拓や調達ルート確認などを続けながら、この街までは無事にたどり着いた。


 しかしこの街で彼女たちは足止めを食ってしまうことになる。

 どうやらヒュファルがイエーグとの国境付近に軍を駐留させたそうだ。

 しかも「神兵」を名乗るヒュファルの手の者が不法に国境を超え、イエーグ国内で何やら動き回っているらしい。

 これらの動きを警戒したイエーグ側が、国境の検問強化および国内の移動制限を発令したことによって、三人は街から移動することが制限されてしまった。

 

 そうはいっても、国境が完全に封鎖されたわけでもなく、神兵とやらも別に表だって問題を起こしているわけでもない。

 少なくとも砦街内では住民や旅人たちの自由は保障されている。

 しかしながら、なぜかサラとアリアは、二人と別れ闇の空をクリーグへと向かったエイミが連射花火団とともに街へと到着するのを、身をひそめながら、今か今かと待っているのだ。

 

「サラ姐さん、退屈なんだけれど」

「これは奇遇だね、あたしも退屈なんだよ。ところでこうやって身をひそめなければならないのは誰のせいなのかな? アリアちゃん」

「ごめん」


 実はアリア、イエーグでは結構な有名人である。

 一時期イエーグ中を席巻した強力な弓である「テッドの弓」に糸を提供した蜘蛛族(アルケニー)として。

 しかし誰もがアリアの顔を知っているわけでもない、

 それにアリアも普通にしていれば、見た目や振る舞いはその辺に花を咲かせている平原族(コモン)の娘とほとんど変わらない。

 なので、ここまでの旅では特に支障はなかった。

 ところが、つい彼女はやらかしてしまった。

 

 砦街内に流れる水路に落ち、溺れながら助けを求めていた住民の幼子を、他の大人たちがおろおろしている間からアリアが救ったのだ。

 彼女の特殊能力である「糸」を使って。

 

 テッドの弓に張られた強靭な糸が、希少種である蜘蛛族(アルケニー)のものであることは、イエーグ国内ではテッドの弓とともに知れ渡っていた。

 当然住民たちも彼女の特殊能力がそれであることに気づく。

 王家は彼女を欲している。

 優秀な糸を張ることができる「便利な家畜」として。

 きっと王家に彼女を差し出せば、莫大な報酬を得ることができるだろう。


 ということで、アリアは住民たちから、恩を仇で返すかのように、追われる身となってしまったのだ。

 アリアのもう一つの能力である「蜘蛛変化」により、どさくさにまぎれて彼女はサラの胸元に隠れてしまい、その場からは脱出できたのではあるが。


 サラはいずれ自らも旅の同行者とマークされるであろうと予感し、一旦宿を引き払うと、別の宿を何食わぬ顔で、宿泊者一名と部屋を取りなおした。

 

 こんな状態なので、アリアは宿の主人も含め、住民たちの前に姿を現すことができない。

 と言う訳で、アリアは小さな蜘蛛姿のまま、宿屋で天井からサラのベッドに向けてぶら下がりながら、暇だ暇だと文句を垂れているのである。


「退屈だから宿屋の探検でもしてこようっと」 


 そうサラの頭上で聞えよがしに文句を言うと、アリアは自らの糸をするすると登り、天井裏に姿を消してしまう。

 そんなアリアの動きを目で追いながら、半ばあきらめの表情でサラは食料の調達に出かけていった。


 アリアは天井裏を伝わりながら、宿の各部屋を覗いて回るという犯罪行為を始めている。


 ある部屋では平原族(コモン)の男女がベッドの上でごそごそとしている。 

「やーね、昼間からお盛んで」


 ある部屋では岩窟族(ドワーフ)のおっさんが昼間から酒をあおっている。

「うへえ、酒臭い」


 そしてある部屋では、見慣れない種族が二人、向かい合って何やらごそごそと相談をしている。

「あら? 何かしら」


 アリアは天井裏から耳をそばだて、二人の会話を盗聴してみることにした。


「どうやら街にはいないようだな」

「まだわからんぞ、野宿ばかりでは身が持たんだろうからな」

「ああそうだな。ところで北の連中からは何か情報は?」

「今のところは大した報告は無い。一応街道付近に神兵どもを待機させているから問題ないとは思うが」


 誰かを探しているのかな?

 

 これは面白いネタを見つけたとばかりに、アリアは自分たちの部屋に戻った。

 するとサラも食事を仕入れてちょうど部屋に戻ってきた。

「ねえサラ姐さん、端の部屋で面白いことを話していたよ」


 アリアの話に、サラも興味を抱いた。

 恐らくそれがイエーグ国境での移動制限の理由なのだろう。


「それじゃあたしも行ってくるか」

「あー、私も行く!」

 サラも自らの能力「蜥蜴変化」により、小さなトカゲの姿に変身すると、アリアの案内で胡散臭い連中の屋根裏に向かって行った。


「おや、あいつらは竜人族(ドラグーン)だね」

「ドラグーン?」

「そうさ」


 竜人種はサラたち蟲獣種(インセクツ)獣種(ウェアーズ)よりも、平原族(コモン)岩窟族(ドワーフ)森林族(エルフ)等に近い種である。

 しかし、サラやアリアが普段は平原族と殆ど見た目が変わらないのに対し、ドラグーンはそれとわかるはっきりとした特徴を一つ持っている。

 それは耳の後ろから伸びる二本の角。

 また、各種魔法への耐性が高いのも種族特性に挙げられる。

 

 一方、竜の性質を持っているためなのか、基本的に彼らの間では、血縁以外では同族間での仲間意識というものに乏しい。

 ちなみにイエーグ東の城砦が反乱分子によって滅ぼされたとき、反乱を主導したのは竜人族の一部族であったといわれている。

 その後リーダーは他の竜人部族たちに援護を頼んだが、同族達はそれをあっさりと拒否した。

 その結果、反乱分子は王都からの軍により殲滅(せんめつ)されてしまい、彼の地に呪いを残すことになる。


 そんな連中が二人つるんでいるだけで、サラの眼にはおかしな光景に映る。

 しかし、すぐにサラには合点が行った。

 何故なら、人がつるむ理由の一つを思い出したからだ。


 それは宗教。

 

「ヒュファルの宗教者ってところだね」


 サラはそう一言つぶやくと、引き続きアリアと共に、竜人どもの会話に耳をそばだてた。

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