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女衒-女を売り飛ばす者-  作者: halsan
花開くとき
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おっさんどもの夜

「よしわかった。重装歩兵金貨二枚、騎兵銀貨七十五枚、遊撃兵銀貨五十枚。あそこのふてくされた男と酔っ払いは数に加えぬが、娘は遊撃兵に加える。これで文句があるのなら、わしらはクリーグに帰る。どうじゃ?」


 意外にあっさりと妥協案を示した団長に拍子抜けした事務官ではあるが、その契約内容で山賊四十人分の首を塩漬けにしてくる傭兵団を雇用できるのならば文句はない。


「わかりました。それではその明細で指令書を用意します。指令書が有効になり報酬が発生するのは、南の街で前線司令官がこの書類を受領した日からですから、早急に現地に向かってください」

「心得ておるさ」


 ダンカンは事務官と握手を交わすと、宿を一軒押さえ、一行の貸し切りとした。


「さて、どうするかの」


 ダンカンが顎髭あごひげをしごきながらそう呟くと、ベテランの一人が手を上げた。

「俺は女子供に捨てられてべそべそ泣いているガキどもに、気合を入れたいのじゃが」


 これは要するに、俺はこれから街で一杯ひっかけてから娼館に出向くから、ガキどもは俺についてこいという間接的なお誘いである。

 ちなみにべそべそ泣いている連中とは、白鳥族との交尾と子育てに身を売られた若手のホープどものこと。


「おう、俺も行くぞ」

「団長、ガキどもを矯正(きょうせい)するためだ。費用は必要経費で頼むぞ!」

 などとベテランどもが盛り上がる中、ダンカンは腕を組んで、悩むそぶりをわざとらしく見せている。


「お前ら、イエーグドワーフどもと鉢合わせをしても、いちいち相手にするんじゃねえぞ」

 などと、ベテランの同族どもに一応釘を刺しておくのだ。


「わかっているぜ団長! 街で揉め事なんて野暮なことはしねえさ!」

 これもいつもどおりの返事がベテランどもから返ってくる。


 そうは言っても、どうせ揉め事の二つや三つは起こしてくるのであろうが。


「よし、許可しよう」

 ダンカンの決定にベテランどもは歓声を上げた。


「よっしゃあ、ガキども出発じゃあ!」

「うおおー!」


 ということで、ベテランどもは若手どもを引きずり、その後をルーキーどもが追いかけるという構図で、団一行は夜の街に繰り出して行った。

 

 宿に残ったのはダンカン、ヴィーネウス、オクタ、エイミの四人のみ。

 特にエイミは、それまで彼女を取り囲んでいたルーキーどもから置いてきぼりを食らってしまい、何が起きたのかよくわからないような表情でぽかんとしている。


「なんだダンカン、お前は行かないのか?」

「わしはビーネ一筋じゃもん。それよりヴィーネウス、お前はどうするんじゃ?」

「俺はオクタと宿で弓国蒸留酒(イエーグウォトカ)でも舐めていることにするよ」

 ヴィーネウスの返事にオクタも同意するかのように、だらしなくへらへらと笑っている。

 

 そんな父親の表情が気に入らなかったのだろうか。

「あたしも街に行ってくる!」

 と、エイミは席を立とうとする。

 しかしダンカンに腕を掴まれ止められてしまった。


「やめとけ。イエーグの王都ほどではないが、この街も蟲獣種(インセクツ)が一人で散歩して気分のいいところじゃないからの。アリアにそう聞いておらなんだか?」


 そういえばそうだった。

 と、エイミは思い出した。

 イエーグに入ってからは、蜥蜴族のサラはともかく、蜘蛛族のアリアは面倒事に巻き込まれないようにと、単独行動は控えていたのだ。


「ならヴィーネウスさん、街に連れて行って」

「断る」

 エイミの申し出はヴィーネウスによってすぐさま却下されてしまった。


「じゃあダンカンさん」

「わしはビーネ一筋だと言っておるじゃろう」

 となると、残りは一人しかいない。


 エイミは、わざとらしくそっぽを向いている父親にじとっと目線を送った後、今日の外出をあきらめた。


 さて、その日の晩のこと。

 ヴィーネウスとオクタはほとんど無言のまま、二人でへらへらしながらイエーグ特産の高級蒸留酒を舐め、エイミはその横で、つまらなそうに果実酒をちゅーちゅーと吸いながら過ごしている。


 ちなみにダンカンは何度も官憲に呼び出され、その度にへべれけに酔っぱらった団員どもを担いで連れ帰り、割り当てた部屋に転がしてくるという作業に従事している。

 

「団長って大変なのね」


 そんなダンカンの姿を見かねたのか、それともおっさん二人との不気味な席で退屈が過ぎたのか、三度目の官憲呼び出しからは、エイミも水差しとカップを抱え、ダンカンのお供を始めた。


 そんなエイミの姿を肴に、ヴィーネウスとオクタはグラスを傾けている。

 時折見せる、エイミを見つめるオクタの柔らかな表情に、ヴィーネウスはカマをかけてみることにした。

 

「カサンドラの指示か?」


 オクタはヴィーネウスの質問には答えること無く、ただちらりとヴィーネウスに目線を送り、鼻をふくらませてみせた。


(いき)じゃねえな、旦那」


 あんたならわかっているだろと言わんばかりのオクタの仕草に照れるかのように、ヴィーネウスはオクタのグラスに新たな酒を注いだ。

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