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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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八十七話 芽生えた闘争

 ナイトメアは苛立ちを隠せなかったが、イーブルは飄々としていた。


「貴様!この状況でよくそんなに呑気な顔ができるもんだな!」

「よせ、ナイトメア。仲間割れをしている場合ではない」

「仲間!?こいつが?仲間だとでも言うのか!タチャンカ!」


 タチャンカが宥めても、ナイトメアの怒りは止まることを知らない。


「お前の短気な性格はエスミックによく似ているな。まあ、その性格のせいで奴は俺との闘争に負けたわけだが」


 イーブルは目も合わせず言い放った。


(ナイトメアの嫌がること、的確に言ってくる人ね。何者なんだろ...この人)


 そんなことを思っているイルゼのことをふっとイーブルは見やった。イーブルに特に意図はなかったが、イルゼは心を見透かされた気がして急いで目を逸らす。


「貴様!!!」

「そう言うところが、エスミックにもあった。私よりも強かったのだがな」


 ナイトメアは、今ここで本当に殺してしまおうかと思った。ナイトメアには、別にイーブルの力を借りずともこの戦に勝つ自信があった。リベルン砦に駐屯しているメテオ兵をまとめて始末することもできると、確信していたのだ。


「よせナイトメア。ここにはスレイン殿もいらっしゃるのだぞ」


 ナイトメアはそう聞き、思いとどまった。今ここでシュライドに悪い心象を抱かせるわけにはいかないことくらい、わかっていたのである。


「...」


 スレインは何も言わなかった。横にいるファインも同様である。


「失敬、少々見苦しいところをお見せした」


 イーブルは仰々しく謝った。


「...しかし、なぜそんなにもイーブル殿は余裕なのだ?砦にいるのは貴殿の部下ではないのか?」

「私の3倍は強い。それだけで、安心に足る」


 それに対して、今まで黙っていたヤマトが口を開いた。


「へえ、俺とどっちが強いんだ?」

「さあ、私は君の強さをまだ見せてもらっていないのでな」


 ヤマトは腹が立ったが、舌戦でイーブルに勝てる見込みはない。大人しく引き下がった。


「さて、見えてきたぞ。リベルン砦が」


 ややの沈黙の後、タチャンカがつぶやいた。


「なにっ!?」


 ヤマトが大きな声を上げ、イーブルの口角が上がる。リベルン砦はまだ落ちていなかったのである。


「ベッジハード大帝國総司令、ナイトメアである。門を開けよ」


 ナイトメアの一声で、重い城門がガラガラと開く。砦内はあちこちが傷ついているようだが、概ねは無事である。


「少々見くびっていたな。いや、しかし予想外にミコルが弱かったのか...?」


 タチャンカがぶつぶつと呟く。イーブルは何も言わなかった。


「ミコルは強い。それはマックスやガンツの有り様を見ればよくわかるはず...純粋にメテオの軍が強かった」


 スレインの発言は、タチャンカの意見を打ち砕くのに十分だった。


「よくぞ...お戻りになられました。イーブル様」


 城内でレイファがイーブルに対し恭しく礼をする。固く握られた拳には血が滲んでいる。


「良い。面を上げよ。よくやった」


 イーブルはレイファの手を握って言った。


「誰が攻めてきたんだ?」


 こう問うたのはタチャンカである。


「知らぬ。総大将の名は、ウォルコムと言ったっけな。小男だったぞ」

「私は老人と、若者。名は知りませんが、相応の強者でしょう」


 レイファとアーロンが続けていった。


「ウォルコム...?」


 ホムズが首を傾げた。


「名を聞いたことが?」

「...もし本当にウォルコムなら、この戦に勝つことは不可能に近い。いや、不可能か?」

「それはどういう意味だ?」


 イーブルの声はいつになく真剣である。


「いえ、彼が宗教家になっているとは到底思えないですから、私の勘違いであって欲しいのですがね...もし本当に彼なら、城に侵入してきたと言うのは、この城が落ちているのと同義なのですよ」

「さっさと言わんか」


 今度はナイトメアが痺れを切らしたようだ。


「彼は、神の試練を突破せし者。私の同郷の幼馴染でございますから、彼のことはよく知っています。確か__」

「バカな!あり得ぬ!」


 ホムズの話の腰をタチャンカが折った。


「神の試練を突破しただと!?わがベッジハード大帝國ですらそんな者はおらぬ!それが、あの宗教国家におるとでも言うのか!?」


 冗談はよせ、と言いたげなホムズをスレインが制した。


「俺は突破した。実力者であれば特に不思議はないな」


 その事実を聞き、ホムズは顔を輝かせた。


「ならば、勝つ見込みはございますな。神の試練を突破した者が味方にいたとは心強い」


 動揺を隠せないのはベッジハード陣営だけである。


「強者と戦わなくて良いなら結構なことだ。スレインに任せて居れば良いのだからな」


 イーブルのこの発言を聞き、ナイトメアは確信した。やはり、天下を統べ得るのはベッジハードだけなのだ。メテオやシュライドにそれはできない。何より、ナイトメアは反骨心の強い男である。戦わなくて良いなら結構などとのたまうイーブルに、大陸を統べる度量はない。また、シュライドも同様だ。分裂した国を一つにまとめられぬような男がいくら神の試練を突破したところで、大陸全土をまとめられるはずがない。

 いずれ、敵になる男たちである。それが、神の試練を突破したとあっては、黙ってはおれない。ナイトメアは、帰国した後に神の試練を受けることを決心した。


「で、敵はどこに?」


 スレインの発言と同時に、城がガタガタと震え出した。


「また貴様か!」

「違う、アーロン!俺じゃねえ!」


 レイファが叫んだが、しかし間違いなくレイファの重力の力である。


「さて...私の勝ちのようだな。連合軍...」


 レイファには聞き覚えのある声であった。


「ウォルコムは、相対した敵の力を奪い取り、それを増幅するスキルの持ち主...1番、厄介な能力を取られましたね...」


 ホムズの言葉は、一同に絶望をもたらした。

ご覧頂き有難う御座います。


今後も御愛読の程、宜しくお願いします。

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