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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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八十六話 狂乱

 リベルン砦は、ミコル教徒によって猛攻を受けていた。


「まさか、ベッジハード軍が壊滅...!?」


 コルットラーの軍師、ホムズは狼狽えながらも、懸命に指揮をとっていた。


「慌てるな。なんのために我らがここにいると思っているのだ」


 アーロンを押し除けて、レイファがズイズイと前に出てきた。メテオの軍は、まだかなりの軍が居残っている。


「すでにメテオの軍は展開しております故、ホムズ殿は自らの国を鼓舞することのみをお考えください。私の力があれば、砦は絶対に落ちることはありません」


 珍しく、アーロンが饒舌である。守戦は彼の専売特許だった。


「無闘結界!」


 砦に張り付いていたミコル兵は完全に弾き飛ばされてしまった。砦の周りには、見えない結界が張り巡らされている。


「無闘結界ねぇ...そんな技を隠してたわけか」

「何、一騎打ちには無用の長物です。私はそもそも、攻めの戦は嫌いですからね」


 レイファは、あのエスミックが反乱を起こした時のことを思い出していた。その時に、アーロンと一騎打ちをしたのだが、どうもその時よりも強くなっているようにレイファは感じていた。


(一体どこで訓練してやがったんだ...?)


 心の中にそんな疑問を抱えつつ、レイファは前線に向かった。ミコル兵を見下ろすと、結界を破ろうと何度も何度も突撃を繰り返しては弾き飛ばされる、滑稽な姿が見えた。


「可哀想になぁ...んなことしたって無駄だよ。雑魚は雑魚らしく黙って大人しくしてりゃ、死なずに済んだのになぁ」


 レイファは、自身の斧を取り出した。常人には持つことのできないほど、重い斧である。


重力の斧(グラビディアックス)


 レイファは、無を切り裂くかのように斧を振り下ろした。途端に、結界に張り付いていたミコル兵達がぺしゃんこに潰れる。


「潰れたカエルみてえだなぁ...あんなの掃除する仕事があるんだって、やなこったなぁ」


 レイファには見慣れた光景だ。いつものように、言葉を吐き捨て、砦の奥に帰ろうとしたのだが、今回はそうは行かなかった。背後に気配を感じ、咄嗟に飛び退いたところ、その部分の城壁が破壊されていた。


「避けた...?俺の一撃を?それにあの技...コルットラーにそんな兵士がいるとは、記録にないぞ。誰だ?」

「あんたこそ誰だ?俺の技を食らっておいて、ピンピンしてるんだ。おまけに、アーロンの無闘結界も破ったときた。只者じゃねえな」

「俺はウォルコム...此度の遠征の総司令官だ」


 ウォルコムと名乗ったその男は、小柄な男だった。レイファが相当に大きいせいで、小人のようにさえ見える。


「へぇ...総司令が前線に突っ込んでくるって?どこぞの御伽噺じゃねえのか?それは」

「俺が名乗ったのだ。貴様も名乗らねば失礼と言うものだろう」

「これはこれは失礼...だが、上の許可がないと名乗っちゃいけねえんだ」

「それは神の教えか?」

「ああ、俺からしたら神様みたいなもんだよ。何があっても裏切らんさ」


 ウォルコムは笑った。


「そうか!では、うちの神を信仰すると良い!お前には素質があるぞ」

「そうしてえなら俺をぶっ倒していくんだな」


 レイファとウォルコムが激突した。風が震え、砦が笑うように震える。 

 異変は、すぐにアーロンが察した。


「無闘結界を破って侵入した者がいるらしい...1、2...3?」

「3?3人いると?」

「いや...不思議な感覚です。2人の気もするし、3人の気もする...」


 アーロンは、結界を破った者があれば、すぐに察知できるほどには熟練していた。侵入者の数がわからないのは、初めてのことである。


「ここを動かないほうがいいでしょう。少なくとも、この結界を破ると言うのは只者ではありません。私と同じか、それ以上の力がなければ破れませんからね」

「では、兵がなだれ込んで来るのでは?」

「結界全体が壊れているわけではないようです。そもそも、この結界を壊そうとすれば、私の力の10倍は必要です。簡単な芸当ではありませんよ。入るだけならそこまで難しいわけではありませんがね」


 しかし、精鋭ミコルの兵達のうちでもたった2、3人しか侵入することができていないのは事実である。アーロンの結界には確かに意味があった。


「失敬...名のある将は貴殿らしかいないのか?」


 アーロン達の目の前には、2人の男がいつのまにか立っていた。1人は若く、もう1人は老人である。


「ケッ...おっさんどもじゃあ面白くねえなぁ。殺しがいのあるやつを望んでたのによ」


 若い男がボヤく。


「しっかし、妙だな。あと1人いたと思ったんだが?お前らの5倍は強そうなやつが」


 アーロンには、それがレイファのことを指していることがわかった。


「間者でもいるのかな?」

「そいつぁ言えねえ。秘密だ」


 アーロンはホムズに耳打ちした。


「城内の兵を率いて打って出てください。結界の外に出るのは誰でも出来ます故...彼らはおそらく何も考えずに突撃してきています。城外には雑兵しかいないでしょう」

「し、しかしこの場は...」

「心配なされるな。私は自分のことなら何があっても守り通します」


 アーロンの真面目な瞳は、ホムズに従う以外の選択肢を与えてくれなかった。


「秘密の相談は終わりましたかな?」


 老人が声をかけてくる。それと同時に、ホムズは姿を消した。その次の瞬間、兵を率いて門の外に打って出る。突然敵兵が門から飛び出してきたと言う事実に、ミコル兵は混乱し、収拾がつかなくなってしまった。当然、指揮官は全員結界を突破して砦内に侵入している。統率を取れるものはいなかった。


「兵を率いる人間が必要だ。爺さん、戻ってやってくれ」

「やれやれ...最近の若いもんは人使いが荒いのぉ。老人は労わるもんじゃと習わんかったのか?」


 そう老人は言いながらも、若者の言うことに従って砦の外に出ようとした。しかし、何度やっても、壁内から出ることはできない。


「おかしいのぉ...入る時は簡単じゃったんじゃが...何かしたのかな?青二才」

「私は青二才と呼ばれるほど若くはないが?」

「質問に答えんか!」

「...私の結界にヅケヅケと入り込んできて、無事で帰れると思うなよ...」


 アーロンが珍しく怒っている。結界に入ってきたと言う時点で、アーロンより強いことは事実なのだが、彼は目の前の敵を全く恐れていなかった。


「じゃあ、お前が相手してくれるんだろうな?」


 若者が拳をポキポキと鳴らして挑発する。


「確かにそれが良い...やつを倒せば結界は全て解ける。若造、良いところに気づくのじゃな」

「爺さんが耄碌してるだけだろう」


 アーロンは額に冷や汗をかいた。どちらかを相手するだけでも、勝てるかどうかわからないのだ。2人同時とあっては、まず勝ち目はない。敵に弱みを見せないために強がってはみたものの、アーロンは少しだけ後悔していた。


(判断を違えたか...?)


 アーロンはしげしげと相手を見やったが、どうしてか一向に攻めてくる気配がない。


「貴様ら、攻めて来んのか!」

「いや、名前を言っていなかったなぁと思ってな。こう言うのは名乗ってからいくもんだろう?」


 若者が挑発的に言った。名前ぐらいは聞いてやる、と言っているようにも聞こえる。


「私はアーー」


 そう、言いかけた時だった。爆音が響き渡り、ガタガタと砦が歌っている。今にも爆発しそうな勢いだ。


「レイファか...?一体何があったんだ」


 アーロンは咄嗟に自分の周りにバリアを張り、なんとか耐え凌いでいたが、ミコル軍の2人はそうもいかなかった。突然降りかかる重力に逆らえない。2人は膝をつき、完全に動けなくなってしまった。


「なんだこりゃ...潰れちまう...」

「さっきの重力とは比較にならんのう...とんでもない力じゃ...」


 うずくまる2人の元に、血だらけの大男がやってきた。


「レイファ!程度と言うものを考えろ!」


 アーロンが叫んだが、レイファは聞く耳を持たない。


「うるせえな!俺は今イライラしてんだよ!逃げられちまった。厄介なことになるぜ?こりゃ」


 レイファのその発言を聞いて、老人と若者は顔を合わせてニヤリと笑った。


「なるほど...総司令は上手くやったと言うことじゃな」

「そうとあっちゃこんなところにいる訳はねえんだ。さっさとずらかるぞ」


 2人は瞬間移動テレポートでその場を脱した。アーロンの結界で塞がれていたはずだが、レイファの重力のせいで解けてしまっていた。


「てめえら!!!」


 レイファは怒った。アーロンの結界に、更に重荷がのしかかる。アーロンの結界がひび割れた。


「良い加減にしないか!レイファ!」


 アーロンの声は、レイファの元に届かない。レイファはそのまま、敵を追って飛び出していってしまった。

ご覧頂き、ありがとうございます。

投稿を再開しましたので、今後もよろしくお願いします。

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