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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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八十二話 英雄物語

「死なない体のようだな」


 イーブルは疲弊していた。切っても切っても手応えがなく、ダミアンはどんどん再生していく。異形の者はいくらでも見慣れていたイーブルだが、こんなことは初めてである。


「「貴様こそ...なぜそこまで余裕なのだ?私に勝てぬことはわかっているだろうに...」」


 ダミアンは、もはや人の原型を残してはいない。人語を話す怪物に他ならない。しかし、彼の発言は正しかった。イーブルに、ダミアンを殺すほどの力はなかった。


「それは貴様も同じだ。私の周りをちょろちょろしているこの肉片に頼りきりなんだろう?」


 ダミアンは返答できなかった。それもまた、事実なのだ。肉片となったダミアンの女の部分は、小さなレイピアを持ってイーブルの体に風穴を開けようとしているのだが、イーブルにその技は通用しなかった。


「もう、遊戯はそれで終わりでいいだろう?付き合うのも面倒でな」


 イーブルはダミアンに背を向けた。ダミアンも、それを追わなかった。


 ふと、イーブルが足を止めて振り返った。見ると、ダミアンの体は綺麗に元通りになっている。


「なるほどな...」


 イーブルは不敵に笑った。


「なんだ?その笑みは」

「いや、なんでもない。それより貴様、名はなんと言う」

「...ダミアン・ブラウンだ」

「なんと哀れなことか...神の救いのあらんことを...」


 「神」という言葉をミコル教徒の前で言ってはいけなかった。


「貴様!我がミコル教の神を愚弄したか!」

「気づいているのではないか。ミコル教など信仰しても、お前の体は元に戻らぬ。神は助けてくれないのだよ」


 信仰をバカにされたダミアンはさらに怒り狂い、イーブルに切りかかった。しかし、子供の力ではどうにもならない。イーブルに剣を合わせられると、ダミアンの剣の方が折れてしまった。


「お前に私は殺せない。しかし、私もまたお前を殺せない。これ以上の戦いは不毛だと言っているのがわからんのか?」

「黙れ!神を愚弄した貴様を許すわけにはいかんのだ!」


 狂信者に、言葉は通じない。イーブルは、自分の失言を悔いた。


「チッ...こんなやつに構ってはいられないというのに...早く砦に戻らなければ」


 そうは思っても、イーブルは、ここでダミアンの相手をし続けるしかなかった。絶対に勝てない相手と戦い続けるのは、イーブルの心情に反する。しかし、どこまで逃げても追いかけてくる狂信者ダミアンは、絶対にイーブルを逃がしてはくれなかった。


 一方、ヤマトは敵兵をなぎ倒し続けていた。あの変な女に絡まれることもなく、気持ちよく無双ができるのは、ヤマトにとっても爽快だったが、何か張り合いがなかった。


「俺とまともに勝負できる奴はどこかにいないのか!!!」


 叫んでも、返事をする者はいない。いつのまにか、かなり遠くまで来てしまったようである。崖を越えたわけでもないのに、砦が見えなくなっている。彼は、敵が周りから完全にいなくなってから気づいた。敵の陽動に引っかかっていたのだ。


「迷ったか...?まあいい、死体を辿っていけば砦に着くだろう」


 この判断は正しかったのだが、ヤマトはミコル兵をあまりにも殺しすぎていた。死体があちこちに散らばっており、どこから来たのかよくわからない。


「早く戻らねえと...なんか嫌な予感がするんだよなぁ」


 

 ヤマトの嫌な予感は、的中していた。


「2度目は通用せんぞ!」

「あら...残念ね。せっかく美味しくいただいてあげようと思ったのに...」


 砦内では、マーティンが目を覚ましていた。イーブルの金縛りが解けてしまったのだ。


「毒使いだ、とイーブルは言っていたな。毒にさえ警戒すれば、恐るるに足る相手ではなさそうだが...」


 しかし、キングダムもガンツも動けなかった。不意に起き上がってきたマーティンに気を取られ、マックスとサザンクロスを人質に取られていたのだ。


「2人の命が惜しいんでしょう?さあ、砦を明け渡しなさい」

「そんなことができるわけがないだろう!」


 マーティンは、長いまつ毛のついた瞳を下げた。憂いを帯びた美女のような格好だが、筋骨隆々の大男である。


「そう...残念ね...」


 マーティンが、マックスの口元に、自身の唇を合わせようとする。ニミッツを殺した時と同じ、処刑方法である。


「てめえ...!」


 ガンツが怒って飛び出した。右拳を上げ、思いっきり殴り飛ばした...はずだったのだが、何者かに止められてしまった。


「遅いわよ...アイザック。起きたらこんなところに1人で、私とっても不安だったんだから!」

「うるさい。あんたは気持ち悪くてたまんないわ。けど、あなたのおかげで私の体に傷をつけた輩を潰せるなら、それも悪くないわ」


 アイザックは、ガンツの拳を両手で受け止め、投げ返した。彼女の体には、ヤマトにつけられた痛々しい傷痕がまだ残っている。血は止まっていなかったが、それがさらに彼女のおどろおどろしさを確かなものにしていた。


 キングダムは額に冷や汗をかいた。ヤマトは戻ってくる気配がなく、イーブルも現在敵と交戦中とあっては、救援は望み薄だ。可能性があるとすれば、黒衣の男を追っていたエリカが駆けつけてくれることだが、それも間に合うことはないだろう。


「あなた達に勝ち目はないわよ...?さあ、ここを明け渡しなさい」

「...」


 キングダムの体さえ自由に動けば、この状況を打開できたかも知れない。しかし、後遺症の影響で、どうにも上手く体が動かない。

ガンツ1人で、ミコル軍の将軍2人を相手取るのは、流石に厳しいものがあった。

 すると、あたりがやけに騒がしくなった。


「何よ!この地鳴りは」


 狼狽えるマーティン達だったが、キングダムは安堵の表情を浮かべていた。

 土ぼこりの向こう側には、巨大な軍が見え隠れしている。間違いなく、シュライドの援軍であった。


「ナイトメアめ...英雄は遅れてやってくる、を真面目にやる必要はないだろうに」


 キングダムは憎まれ口を叩いたが、口元は笑っていた。マーティン達がシュライドの軍に気を取られている隙に、ガンツが2人を取り戻す。完全に、形勢は逆転した。

ご覧頂き、誠に有難う御座います。

今後も御愛読の程、宜しくお願いします。

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