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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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七十九話 索敵行

 撤退していくミコル教徒達を砦から眺め、高笑いしている人物がいる。勿論、今作線で指揮官を務めたフェルデナント・ニミッツ少佐である。


「下等生物がいくら群れようと、我等神軍に勝てない。ベッジハード万歳!!」


 そして後方から到着した援軍、即ちマックス率いるベッジハード軍が砦の中に入っていく。


「御苦労ニミッツ少佐。大天使を召喚し、耐久戦に持ち込む作とは中々の思い切り、天晴あっぱれ!!」


 ニミッツに賞賛の言葉を述べたのは狂神五人衆の一人ヤマトである。


「勿体無きお言葉、感謝至極で御座います」

「ニミッツよ、我は天界に帰って良いのか...?」


 申し訳無さそうにヴィクトリアが問う。


「勿論だとも、この度は私達に力を貸してくれて本当に有難う」

「礼には及ばん。契約とはそういうものだ」


 そう言ってヴィクトリアは光の粒子となり天界に昇っていった。そして門から総大将であるマックスが砦に入ってきた。


「あの数から良く、我等が来るまで砦を守ってくれたなニミッツよ、感謝する」

「マックス様も...有難き言葉、感謝申し上げます」

「早速で悪いんだが、被害状況報告したまえ」


 少しニミッツの顔が暗くなった。


「はい。200人程いた隊員達ですが、戦死者126名、行方不明者14名、負傷者42名となっております。指揮官級は、私とシェルミナーの二人のみで、シェルミナーは戦死しました...」

「...かなりの損害だな、把握した。良くここまでやってくれたよ、このままお前達はベッジハードに帰国して休んでくれ」

「マックス様、進言しても宜しいでしょうか?」

「構わんぞ」


 少しの間を置いてニミッツが口を開いた。


「シェルミナーの仇は私が討ちたいのです。どうか私を前線に残して頂けませんか?」

「却下だ」

「...何故ですか?」

「今の疲弊したお前が戦力になるとは思えない。それに加えて、ここでシェルミナー少佐に加えて、指揮官級のお前が死ねばナイトメアに顔向けできないからな。悔しいだろうが、ここは我等に任せてくれ。それとも私が信用できないか?」

「いえ、そんな事は...分かりました」


 ニミッツは拳を握り締め、涙を流しながらマックスの指示を受諾した。余程前線に残りシェルミナーの仇を討ちたかったのであろう。


「ニミッツ少佐、今任務最後の仕事だ。この砦にいる電撃部隊隊員をベッジハードに撤退させ、コルットラーに残る電撃部隊はリベルン砦で待機の命を出せ」

「御意」


 ニミッツは断腸の思いで引き下がった。


「ここを最終防衛ラインとする。ヤマト、ガンツ、用意はいいな?」

「おうとも!」


 ガンツとヤマトは砦の前後の細い街道に布陣した。砦に張り付かれるのを防ぐためである。切り立った崖の下に作られた天然の要害であるこの砦は、横からの攻撃を恐れる必要はなかった。


「砦に一兵も入れるな!」


 そうマックスが叫んだ時であった。


「プリマ!コンシエンシア!」


 突如として、ミコルの軍隊が崖上から現れた。数はわからない。砦の防御の薄い横腹を突かれた形になった。


「!?」


 砦の防衛準備はまだ済んでいない。そこに奇襲を仕掛けられたのである。兵達はたちまち混乱した。


「卑怯者どもが!!!」


 ヤマトがミコル兵に向けて突撃を敢行した。あっという間に兵の波にもまれ、マックスの視界からは消えてしまった。


「サザンクロス、ヤマトを追ってくれ」

「御意」


 サザンクロスがヤマトを追って出て行くと、キングダムとマックスは戦況を見つめ直した。


「奇襲により混乱してはいるが、敵の数は少ない」

「ああ。混乱を収拾し、防戦に徹すれば恐れることはないな」


 マックスとキングダムは、城内に残った兵士にこのことを伝え、まずは混乱を収拾した。


「キングダム、砦内のことは貴様に任せる。私は打って出る」

「御意」


 マックスは壁上に立ち、大声で叫んだ。


「我こそがベッジハード大帝國大元帥、マックスである!!!俺の首が欲しいものは、かかってくるがいい!!!」


 “恐慌”によって大多数のミコル兵は倒れ伏すはずであった。しかし、倒れた者は誰1人としていなかった。


「ふん、選りすぐりの精鋭ども、と言うわけか」


 マックスはそう言うと、ガンツの救援に向かった。ヤマトはすでに、サザンクロスが救援に向かっているので、大丈夫だと判断したのだ。


 そのガンツは、マーティンと戦いを始めていた。


「あら?せっかくお返しをしに来たのに...あなたじゃ相手にならないわよ」


 ガンツは激昂した。


「名乗りもせずによくも俺をバカにできたものだな。そこまで大口を叩くのだ。楽しませてもらうぞ」


 マーティンは不敵に笑った。


「はーい。終わり。対戦、ありがと」


 ガンツはマーティンに息を吹きかけられた。それだけ、たったそれだけである。


「貴様...舐めてい...!?」


 次の瞬間、ガンツの体が動かなくなった。声すらも出なくなり、その場に倒れ伏した。


「私の毒、美味しいでしょ?ご馳走様」


 そう言って、マーティンはガンツにトドメを刺しに行く。ガンツは絶望を感じた。


(俺は...こんな馬鹿げた奴にやられて死ぬのか?エリカ...俺は...)


「ガンツ!!!」


 すんでのところで、マックスの助けが間に合った。


「あら?そこの男よりも随分骨がありそうじゃないの。さっき大声で名乗ってた...確か名前はマックス、だったかしら?私はダグラス・マーティンよ。以後お見知り置きを」

「貴様の名前などに興味はない。うちのガンツをやってくれた礼はきっちりと返すぞ」


 マーティンとマックスは争い始めた。ちょうどその時、サザンクロスがヤマトに追いついた。ヤマトを恐れて、ミコル兵は彼の周りからいなくなっていたので、サザンクロスは簡単にヤマトに会うことができた。


「ハァ...ハァ...ヤマトさん、あまり突っ走らないでください...」

「ああ?!俺は今機嫌が悪いんだよ!」

「落ち着いてください!全員で固まっていれば、防戦なんですから明らかに我々が優勢なのですよ!」


 サザンクロスの諫言は、ヤマトの耳には全く届かなかった。ヤマトが無視して前に進もうとすると、いつからいたのか、小さい子供と大人びた女性が立っていた。昔のヤマトなら、きっと舐めてかかっていただろうが、今回の彼は違う。戦場に出てくる女、子供は只者なわけがない。むしろ、男よりも怖い存在であることに、彼は気づいていた。


「あまり...僕たちの仲間を傷つけないでくださいね。特に、彼女は」


 隣に立っていた女を指差して、少年は怯えるように言った。その姿は、まるでただの子供だ。


「私は戦いたくないの。怪我するのも嫌だし、あんたらみたいな野蛮な男はもっと嫌いよ。わかった?さっさと私の目の前から消えてちょうだい」

「てめえが突っかかってきたくせになんだその言い草は!!!」


 ヤマトは咄嗟に手が出てしまった。女の右頬から血が滴っている。その瞬間、彼女の長い髪が逆立った。


「よくも...私の顔に傷を!!!」


 ヤマトは一瞬で、サザンクロスの視界から消え去った。そのヤマトを追って、女も消えたため、この空間に残されたのはサザンクロスと少年のみになった。


「あーあ...アイザック姐さんを怒らせちゃったか...」

「少年...君は何者だ...?」

「僕はダミアン・ブラウン。少年とは失礼なことを...僕はこれでも大人ですからね?彼女はアイザック・カメルン。傷つけられたら手をつけられないぐらいに暴れ回りますからねぇ...彼、助からないと思いますよ」


 先ほどの少年の面影はなかった。恐ろしいほどまでに冷徹な声は、間違いなく敵であると言うことを、サザンクロスに認識させた。


「少年、立ち去れ!でなければ、私はお前を殺してしまう」

「残念ながら、上の命令です。それはできません...むしろ、貴方が立ち去ってはどうですか?あまり、見られたくないもので」

「それは私にもできん。死んでも後悔はしないのだな?」

「立ち去らなくて良いのですか?」


 サザンクロスは覚悟を決めた。少年を殺すことにためらいの気持ちはあるものの、敵に情けは無用だ。剣を握り、なるべく見ないようにして、ダミアンに向けて振り下ろした。


「「あーあ...切っちゃった...あんまり見られたくないのになぁ...」」


 声が重なって聞こえる。恐る恐る目を開けてサザンクロスが声の主の方を見ると、切られたところから、もう一つのダミアンの顔が再生していた。見ると、先ほどよりも幼い姿になっている。


「な...まさか貴様...!」

「「中途半端に切られるとこうなっちゃうんだよ...一思いに切って欲しかったなぁ!!!」」


 肩口からザックリと切られたダミアンは、肩に新たな顔を生やして、サザンクロスに襲いかかってきた。


「うわあああ!」


 サザンクロスは素っ頓狂な声を上げながら、無我夢中で切りかかる。今度は、首を刎ね飛ばした。


「「だからぁ...切っても無駄だって...」」


 切り落とされた頭と、肩口から歪に生えた頭が同時に喋る。しばらく経つと、首から新しい頭が生えてきた。


「なんと言う生き物だ...?貴様は...」

「「何って...僕はただの人間だよ...?何を怖がることがあるんだい?”大人“でしょ?」」

「貴様みたいな人間がいてたまるか!」


 もう一度、剣を抜いた。切っても無駄なら、突くしかない。心臓を一突き、そう考えて、サザンクロスは剣を斜めに構えた。その勢いで、ダミアンの胸に深々と剣を突き刺した。鮮血が舞い、ダミアンはだらんと腕を下げた。


「はぁ...なんだったんだこいつは...」


 剣についた血を拭い、サザンクロスはその場を立ち去ろうとした。すると、足に何か違和感を感じる。見ると、小さな女の子が捕まっている。


「ふふ...なんてね。私を切り離してくれてありがとう...」

「な...!?」


 小さな子供に似つかわしくない武器は、レイピアである。それがサザンクロスの目に入るのが、それとも、足に激痛を感じる方が早かっただろうか。


「うっ...!」


「気づかなかったのか?愚かな男だな...お前は僕の首を刎ね飛ばした...僕の体から完全に切り離された体の一部は、何故か知らないが女になるんだ...どこからともなくレイピアを出して、グサっと、ね。そのうち僕が殺されるんじゃないかと思うぐらいだよ」

「心臓を刺しても死なないのか...一体貴様は...」


 ダミアンは、いつのまにか切られた体を修復している。元の少年、ままの姿である。


「戻っておいで。ダミアン」


 サザンクロスの足に捕まっていた女の子は、ドロドロとした液体に変わり、ダミアン本体に吸収された。


「で、おじさん。僕の目の前から失せる気になった?」

「殺せ!子供に情けをかけられたとあっては我がサザンクロスの名が泣くわ!」


 ダミアンは、わざとらしく驚いた顔を作った。


「へえ...おじさん、あのサザンクロスなんだ...巷じゃちょっとだけ有名なんだよ。利用価値がありそうだね...」


 ダミアンの笑みは、いたずらっ子の笑みそのものだったが、それがサザンクロスにより一層の恐怖を与えた。

ご覧頂き、有難う御座います。

今後も御愛読の程、宜しくお願いします。

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