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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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七十八話 犠牲と接吻

「急報、前線部隊全滅。こちらに大量のミコル教徒が侵攻してきます!!」

「何、早すぎる。シェルミナーはどうした!?」

「分かりません。ですが状況的に見て、討ち死にされた可能性が...」

「ありえない、仮にも電撃部隊少佐だぞ!!」


 ニミッツは、予想外の速さで敗北した前線部隊に驚きと憂鬱の念を部下の前で隠せなかった。


「...援護に回った部隊は?」

「前線部隊が全滅しているのを確認し、こちらに帰還しています」

「不幸中の幸いか...」


 ニミッツは深く溜息をついた。作戦を練り直さなければならない。しかし前線の部隊の崩壊が早すぎる為、じっくり作戦を練る暇もない。


「ニミッツ少佐、敵はすぐそこまで来ています。指示を」

「ニミッツ隊、シェルミナー隊をここに集結させろ。ここからは籠城戦だ。ここを突破されれば、リベルン砦が落ちるのは必至。なんとしてもベッジハード軍が来るまで耐えるんだ!!」

「御意!!」



「あ〜周辺の集落、蹂躙じゅうりんし尽くしちゃったわねぇ。まさか誰も信徒になってくれないなんて予想外だわぁ」

「そりゃアンタが説明しないからだろ」

「嫌ねぇ、ちゃんと説明したわよ。みんな聞かずに逃げていっただけで」

「アールカ様がアンタに手を焼くのも理解できるよ」


 マーティンとミコル教徒達はリベルン砦に向けて侵攻している最中であった。そこには馬車に乗せられ、気絶しているシェルミナーの姿もあった。


「私がアールカ様に迷惑かけてるって言いたいんけ、殺すわよ。アンタ」

「オカマ野郎、悪意は無かった、気にすんな」

「凄く馬鹿にされてる気がするけど、まぁいいわ。次の砦も見えてきた事だし」


 マーティン達はそのまま侵攻し、砦を包囲した。城壁の上には、指揮官であるニミッツが立っている。


「降伏しない?あなた達に勝ち目はないと思うけど」

「我らは誇り高きベッジハード帝國の将!貴様らごときに降伏するなら、自ら死を選ぶわ!」


 マーティンは少しため息をついた。


「うーん、おバカさんね。降伏するならシェルミナーくんを返してあげても良いんだけど?」

「な...シェルミナーは生きているのか!?」


 少しだけ、ニミッツは悩んだ。今ここで降伏すれば、シェルミナーは助かるかもしれない。


「どうするの?」


 マーティンは急かした。しかし、マーティンの思ったような返答を、ニミッツは返さなかった。


「断る。シェルミナーが生きていると言う確証もない上、お前らを信用できん」


 マーティンは不敵に笑った。


「あらら...残念」


 マーティンは、眠っていたシェルミナーを起こして、城壁の上のベッジハード軍に見える場所で縛りつけた。


「き...何を...す...」


 シェルミナーは神経毒のせいで、まともに喋ることができない。ニミッツはそれを見て、少しいたたまれない気分になった。


「聞こえないわよ?もっとハキハキ喋らないと。まあ、どのみちあんたはこれから公開処刑だけど、ね」


 マーティンはそう言って、唇をシェルミナーの元へ持って行った。


「おい、貴様何をしている!」


 ニミッツの声は、もはやマーティンの耳に入らない。シェルミナーは何か口を動かしてはいるものの、言葉にはなっていない。


「大人のキスで死ねるのよ?ありがたく思いなさい」


 その瞬間、マーティンの唇とシェルミナーの唇が接触した。シェルミナーはもがこうとするも、毒のせい、あるいは縛られているせいで、全く動くことができない。


(やめろ...やめてくれ!せめて、口の中に貴様の汚い舌を入れてくれるな!)


 そうシェルミナーは思っても、容赦なくマーティンの舌は彼の口内に入ってくる。


 気持ち悪い、ミミズを無理やり食べさせられているような感覚を味わいながら、シェルミナーの意識はどんどん遠のいて行った。


 ニミッツの脳から、その時のシェルミナーの苦悶に満ちた顔が一生取れることはなかった。


「んふ...処刑完了。美味しかったわよ、あなたの唇」


 シェルミナーはもう動かない。死体は、城壁の上へと放り投げられた。


「私と戦うってことはこうなるってことよ?肝に銘じておきなさい」


 ニミッツを含む、電撃部隊の兵士達は全員が固まってしまった。


「...許さん。貴様だけは絶対に、この私が殺してみせる!」

「あら、威勢のいいこと。嫌いじゃないわよ、そう言う男」


 ニミッツの背筋に何か冷たいものが走った。わなわなと震えながら、彼は拳を握る。


「総員!あの憎きミコル教徒共を許すな!」


 周りからは大きな叫び声が上がる。


「貴公の力は聖光となり、我々を暗黒から守るために立ち上がる事を欲す。


貴公は我々を救い、混沌を退け、有象無象を救う事を欲す。出よ、大天使ヴィクトリア!!」


 ニミッツが詠唱し終えた瞬間。周りから多数の魔法陣が出現し、天が割れ、周囲は閃光に包まれた。


 そしてニミッツの前に大天使ヴィクトリアが現れた。


「我を呼んだのは貴様か」

「ああ、我等をこの状況から救って欲しい」


 この状況にマーティン等は。


「マーティン、攻めなくて良いのか。今が絶好の機会だと思うんだが」

「バカね、アンタ。こういうのは待ってあげるのが常識ってやつなのよ。召喚魔法習った時、教わらなかったかしら?」

「お前、どんな教育受けて育ったんだ...?」


 大天使はミコル教徒達を睨み、ニミッツに問いかける。


「奴等から貴様等を守れというのか?」

「そうだ」

「良かろう」


 大天使はミコル教徒の方に向き直り、語りかける。


「我は大天使ヴィクトリア。無闇な殺生は趣味では無い。故に撤退してくれると有難いのだが?」

「あら、タイプ。でも、ごめんなさい。好きな人には意地悪したくなっちゃうのよ」


 ヴィクトリアの身震いが止まらない。しかし、流石は大天使。行動に支障が出る事はなかった。


浄化結界ハイレージ

「あら、結界...まぁ何にせよ。仕留めさせて貰うわ。こっちにいらっしゃい暗黒球体(ブラックホール)!!」


 マーティンの攻撃は不発に終わった。マーティンは繰り出そうとした魔法が使えない事が分かると不思議そうな顔をしてヴィクトリアに問う。


「それがあなたの能力?私の技、使えなくしたんでしょ?」

「その通り。搦手は私には通じない。これでも撤退せぬか」


 マーティンは不敵に笑った。


「嬉しいわ!拳と拳で語り合いましょう!ほら、かかってらっしゃい?来ないなら、私から行くわよ」


 血走った目でヴィクトリアを見つめながら、マーティンは殴りかかってきた。それに続くように、ミコル教徒は砦に突撃した。


「馬鹿か、こいつら」


 それと同時に守備についていた電撃部隊は、魔道具で攻撃する。たちまち、ミコル教徒は倒れ伏して行った。


「チッ...弱い虫ケラが、私について来れない者は置いていくわよ!」


 マーティンはヴィクトリアに殴りかかるも、ヴィクトリアは全く動じない。

 

「さっきの威勢はどうした?私にその程度の攻撃は効かんぞ」


 ミコル教徒はどんどん討たれていくも、元々数では押していた。それに、大天使ヴィクトリアをマーティン1人が釘付けにしていたため、徐々に城壁の上の電撃部隊の隊員は数を減らしていく。


 ニミッツは額に汗を垂らした。退却命令を出すべきなのか、しかしここは重要な前線基地である。ここを落とされてしまえば、リベルン砦が丸裸になってしまう。リベルン砦が落とされることは、すなわち敗北を意味する。だが、玉砕するわけにもいかない。


「...下がって持久戦に持ち込むぞ!」


 自らの剣でミコル教徒数名を城壁から吹っ飛ばすと、兵達に城壁から降りることを命じた。外の敵は全て、ヴィクトリアに任せる気なのだ。


「私の主人は随分と乱暴なようだ...!?」


 ヴィクトリアが呑気にニミッツの方を見やったその瞬間、マーティンの一撃をもろに喰らってしまった。


「やっといいのが入ったわ...さて、お楽しみはこれからよ?」

「ふん。主人のために少し本気を出してやるか」


 ヴィクトリアがそう言うと、城壁を登って、砦内に雪崩れ込もうとしていたミコル教徒達が一斉に弾き飛ばされた。


「雑魚程度でこの結界は破れん。さて、お楽しみはここからのようだな...」


 マーティンとヴィクトリアの一騎打ちが始まった。マーティンはヴィクトリアに魔法を詠唱させる隙も与えず、連続で殴りかかるが、それ自体が大したダメージにはなっていない。


「本来の力で戦えていないとはいえさすがは天使ね...」


 おまけに、マーティンお得意の闇属性の技術は封じられてしまっている。


「褒めてもらって光栄だ」


 マーティンに勝ち目はなかった。


「さて、私の役目はここで終わりのようだ」


 ヴィクトリアが振り返った方向には、土埃が舞っていた。猛々しく獅子の紋章の入った旗が翻っている。


「我らの勝ちだ!本軍が到着したぞ!」


 ニミッツが叫ぶ。その声は、ミコルの敗北を意味していた。


 マーティンは歯軋りをしながら、限られた信者にしか発言権の無い"以心共有"で全ミコル教徒に伝達する。


「マーティン部隊、一度撤退する!」


 背を向けるミコル教徒達に対し、辺りは兵士達による歓声に包まれた。

ご覧頂き有難う御座いました。

今後も御愛読の程、宜しくお願いします。

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